スピンオフでも「BORDER」ワールドは健在!
まさに「至福」。
今回、3年ぶりに復活した「BORDER」シリーズ。スピンオフとはいえ、連続ドラマの「BORDER」となんら変わらない世界観を作り上げるあたり、さすがは金城一紀だ。それを全国の皆さんに先駆けて一足先に見られるなんて、BORDERファンとしては至福としか言いようがない。
正直ネタバレが怖くて前篇だけ見ようと思っていたが、続きが気になって気になって、知らず知らずのうちにDVDプレーヤーにディスクを入れてしまっていた。それくらい引き付けられる物語がそこにはあった。
いきなり波瑠センセイの冷たい視線&「邪魔しないでよ…」から始まるというのもグッド。あの目で見られたらつい「ひぃ…ごめんなさい!」と言ってしまいそう。だが、それがいい! って何の話だ。
さておき、小栗らいつものメンバーが出ているわけではないのにすぐに「BORDER」の世界観を味わえるのは、“サントラ界の巨匠”としても知られる川井憲次氏の音楽と、実に“生っぽい”映像が一因として考えられるだろう。
これは連続ドラマ当時から思っていたことだが、必要以上に“明るさ”を求めないのが「BORDER」の魅力。天気がいいように見えてどこかモヤがかかっているような、というべきか、石川安吾(小栗)の心の中を表しているかのごとく、晴れているはずなのに、どこか薄気味悪さを漂わせる。
それをさらに助長するのが川井氏の音楽だ。アニメ、ドラマ、映画、ゲームなど幅広い映像作品の音楽を担当してきた彼が作り出す、独特のダークでエモーショナルなメロディー。これをなくして「BORDER」は語れないというほど存在感があり、試しに消音でドラマを見てみたら、全く違う作品に見えたほど。
それはちょっと盛ってしまったかもしれないが、それくらいこの作品を語る上では欠かせないもの。今回のスピンオフでも新曲が使用されていて、「BORDER」サウンドのファンも満足できるはず。
比嘉が昔から優秀なんだろうなというのはすぐに伝わってきたのだが、スピンオフの主要キャラクターとして登場した浅川も実に面白い人物だ。
高圧的な態度は一見して嫌われ者のそれなのだが、男性目線で言えばどこか憎めないところもいい。男なら誰だって自分の脅威となるべき後輩女子が出てきたら、虚勢を張ってしまうだろうし、少し大きく見せたくもなる。
個人的には工藤演じる中澤から捜査資料を渡してもらうとき、手をピッと出すしぐさが、ミュージカルのような感じでこれぞ石丸!という動きで、思わず笑ってしまった。割と緊迫する感じのシーンなのだが。
それに工藤のビシッとした感じの演技も久々に見た気がする。最近はちょっと三枚目というか、ちょっと“残念イケメン”キャラの印象も強かったが、今回は全編通して硬派な刑事。もともと目力の強いタイプということもあるが、こっちの世界でもまた見てみたい。
そして、被害者と同じ学校に通う女子中学生役の清原。前篇では少しのシーンでも凛とした佇まいが印象的で、妙に存在感のある役どころ。時折何とも言えない絶妙な表情を見せる彼女の演技は、まさにびっくりぽんや!
それに「あさが来た」(2015-2016年、NHK総合ほか)では、波瑠が演じるヒロインの家で女中として働いていたこともあり、2人の姿を見ると懐かしい感情を抱く人も多そうだ。
そしていかにもなテレビクルーに、被害者の最後の笑顔、比嘉の強気な姿勢に連ドラとは違う手術着姿、他にも印象的な場面はたくさんあるのだが、細部にわたってこだわり抜かれたその物語のすべては、自分の目で見て確かめてほしい。
これから見る人には作品に敬意を込めてこの言葉を贈りたい。
「こちらの世界へ、ようこそ」
文=人見知りシャイボーイ
【前篇】10月6日(金)夜11:15-0:15
【後篇】10月13日(金)夜11:15-0:15
テレビ朝日系で放送
※一部地域を除く
「BORDER 贖罪」
10月29日(日)夜9:00-10:54
テレビ朝日系で放送
【公式サイト】http://www.tv-asahi.co.jp/border/