水谷豊とは何者か?【てれびのスキマ】

2018/04/21 05:00 配信

芸能一般

いまだ“バイト感覚”!? 底知れぬ水谷豊の“本気”

「でもね、まだ本気出してないんだよね」

水谷豊は、そう言って石橋貴明をのけぞらせた。「かっけー、かっけぇーー!」と囃し立てる石橋に水谷は戸惑いながら尋ねる。

「そう思わない、貴明? やってもやってもやった感じしないって?」

「僕は目いっぱいですよ」と返す石橋に、飲んでいた水を盛大に噴き出した(「リシリな夜」'14年2/23TBS)。それくらい、「まだ本気を出している感じがしない」という実感は、当たり前のことのように水谷豊の中にあるのだろう。

水谷豊は稀有な俳優である。

水谷といえば手塚治虫原作の伝説的特撮番組「バンパイヤ」(1968~1969年フジテレビ系)でデビューした。これは、アニメと実写が融合した革新的作品。水谷はこの作品で狼に変身する主人公の少年・トッペイを演じ注目される。だが、本人の思いは違った。

ここは自分のいる世界ではない。

水谷は程なくして、大学入学を志したことをきっかけに役者の世界から足を洗った。だが、ちょうどそのころ、父親が事業に失敗し家計が傾いた。しかも、受験にも失敗。浪人生として生活するため、アルバイトをしなければならなくなった。そんな折、旧知のプロデューサーから「また役者をやってみないか」と誘われるのだ。

一度経験した役者という仕事。どうせアルバイトをするのなら、経験したことのある仕事のほうがいいと思った水谷はそれを引き受けた。そんなバイト感覚でやっていた仕事が評価され、「傷だらけの天使」(1974~1975年、日本テレビ系)の亨役、映画「青春の殺人者」(1976年)の斉木順役、「熱中時代」(1978~1981年、日本テレビ系)の北野広大役、「刑事貴族」(1991~1992年、日本テレビ系)の本城慎太郎役などと、各年代で世間から役名で呼ばれるようなハマり役を演じてきた。

そして現在も、2000年から続く「相棒」シリーズ(テレビ朝日系)の杉下右京役で、みんなから「右京さん」と呼ばれている。

役名で呼ばれるというのは役者にとって名誉なことだと言われる。だが、一方で、その役のイメージがつき過ぎて役者の幅を広げるうえで足かせになってしまうことも少なくない。だが、水谷豊の場合、何人もの役名で呼ばれているのだ。そんな俳優、なかなかいない。

「いろんな役をやってきてるんですけど、僕は自分を変える意識がないんですよ」(「SWITCHインタビュー達人達」'15年4/18NHK Eテレ)と水谷は言う。たとえば「傷だらけの天使」の亨は「中学も行っていない」だとか、「相棒」の右京は「東大を主席で卒業」だとか、役の生い立ちやどのように育ってきたかさえ分かればそれだけでいい、と。

「それだけ分かれば、もうそうなっていくんですね。ですから自分で役作りに苦労したことがない」(同)

役者は「一生やる」と断言できる仕事ではない。なぜなら、いくら自分がやりたくても、依頼が来なければできないからだ。定年退職はないが、自然退職がある仕事だ。

「だから本業って呼べるのだろうか。自分では本業だとは思えない」(「ボクらの時代」'15年4/26フジテレビ系)

そういった意味でも、水谷にとって今でも役者業は“バイト感覚”なのだ。それを堂々と言えるのは、役者としての自分に並々ならぬ自信があるからに他ならない。

「カメラの前に出たりとか、こう芝居をして手を合わせると、だいたいは勝負つくのね」(「リシリな夜」=前同)

勝ち負けではないが、それに近い感覚だという。実際に一緒に芝居をした途端、共演者たちから信頼を勝ち得ることができるのだ。

「だから僕は、芝居をしてる時のほうが、その人が分かる。芝居してる時って芝居できない。だけど、普段の時のほうが芝居できるんだよね、人って。日常生活のほうが。台本がないから。だけど、台本があってその中でやると、どう本を読んだかだとか、どういう気持ちでその本を読んだかが見えてくるから、人が分かっちゃう。全部見えてきちゃう。だから芝居したほうがその人が分かる」(同)

水谷豊にとって俳優は「本職」と呼べないかもしれないが「天職」と呼ぶに相応しい。そんな水谷には、もう何十年も年末になると必ず言ってしまう口癖があるという。

「来年は本気出すよ」

(文・てれびのスキマ)

◆てれびのスキマ=本名:戸部田誠(とべた・まこと) 1978年生まれ。テレビっ子。ライター。著書に『1989年のテレビっ子』、『タモリ学』、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか』、『コントに捧げた内村光良の怒り』など多数。雑誌「週刊文春」「週刊SPA!」「TV Bros.」、WEBメディア「日刊サイゾー」「cakes」などでテレビに関する連載も多数。2017年より「月刊ザテレビジョン」にて、人気・話題の芸能人について考察する新連載「芸能百花」がスタート

「月刊ザテレビジョン」(毎月24日発売)にて、てれびのスキマが毎号1人の芸能人に焦点を当て考察する新連載「芸能百花」がスタート! 第9回の“お題”「水谷豊」は発売中の5月号にて掲載

◆てれびのスキマ◆1978年生まれ。テレビっ子。ライター。雑誌「週刊文春」「週刊SPA!」やWEBメディア「日刊サイゾー」「cakes」などでテレビに関する連載多数。著書に『1989年のテレビっ子』『タモリ学』など。新著に『笑福亭鶴瓶論』

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