「“殺人”と“不倫”は絶対に描きません」巨匠プロデューサー・石井ふく子が“ホームドラマ”にこだわり続ける理由
人の心や絆をしっかり描く作品を作りたいんです
──この作品もそうですが、石井先生は、単発ドラマ時代の「日曜劇場」のころから、一貫して“ホームドラマ”にこだわり続けていらっしゃいますね。
「『日曜劇場』では大半のドラマを担当していましたし、同時に連続ドラマもやっていましたから、同時に3本くらい掛け持ちしていたこともありますよ。ホームドラマしか作ってない、というくらい。他のものはできないんですよね。私はやっぱり、人の心をしっかり描く作品を作りたいんですよ。家族のあり方が変わりつつある中でも、人の心や絆、血のつながりというものを忘れないでほしい、もう一度思い出してほしい、そう思っているんです」
──そんなホームドラマの代表作の一つが、水前寺清子さん主演の「ありがとう」(1970年ほかTBS系)です。
「あのドラマは、4月スタートなのに、2月になっても主役だけが決まっていなくって。ある日、TBSのディレクターの鴨下信一さんに用事があって、歌番組の収録スタジオに行ったんですよ。そしたら、何だか小っちゃくて細い女の子がいて、『あの人、誰?』って聞いたら『水前寺清子ですよ』って。私は歌番組を見ないものですから、全然知らなくて。でも、『「ありがとう」の主役はこの子しかいない!』とひらめきを感じて、すぐにレコード会社の方を紹介していただいて、出演をお願いしたんです。ところが、とてもドラマをやれるようなスケジュールはないと断られてしまった。でも、私としては『もうこの人しかいない』と思い込んでしまってますから、毎週、歌番組のスタジオに通って、休憩時間に声をかけ続けたんです。トイレまで追い掛けていきました(笑)。それでも、やっぱりダメで、もう違う企画をやろうと思いかけていたところで、チータ(水前寺清子のニックネーム)の方から『私でお役に立てますか?』と言ってきてくれたんです。確か、4回目に会いに行ったときだったと思うんですけど」
──4度目の直談判で、ついに熱意が通じたわけですね。
「レコード会社からは最初、ドラマの仕事を引き受けたことを怒られたみたいですけどね。演歌は着物なので、警察官みたいなスカートの短い衣装はイメージに合わない、なんて。でも、ご本人が興味を示してくださって。一度、『どうして私なんですか?』って聞かれて、『美人じゃないからいいんです』なんて、うっかり言っちゃったことがあるんですよ(笑)。今でも仲良くさせていただいていますけど、未だに『石井さん、私に何て言ったか覚えてる? 「美人じゃないからいい」って7回も言ったんだよ(笑)』なんて言われます」