飯豊まりえ&武田玲奈、中川大志…気鋭の映画監督・井口昇が語る若手俳優たちの魅力
人間の本質は、フィクションの世界でこそ描けるんじゃないか。それがフィクションの役割じゃないかと思うんです
──先ほど、「いろんなジャンルにチャレンジしたい」とおっしゃっていましたけれども、今後の活動についての展望は?
「理想を言えば、僕が昔から手掛けてきたファンタジー、ホラー系の作品と、『マジで航海してます。』のようなポップな作品を、交互にやっていきたいですね。僕が作るファンタジーやホラーって、どうしても過激な印象を持たれがちで。もちろん過激なものも大好きなんですけど、映画少年として育った自分は、ジャンルを問わず、さらに言えば、映画もテレビの区別もなく、全ての映像作品が好きなので、監督としてもオールジャンルでやっていけたらと思っています」
──ちなみに、ドラマと映画とでは、演出する上で何か違いはあるのでしょうか?
「テレビというのは本来、特定の視聴者に向けられたメディアではないので、ドラマを演出するときは、誰が見ても楽しめるように、いかに分かりやすく伝えるかを念頭に置いて、見せ方や切り口を考えています。その点、映画の場合、特にインディーズの作品を撮るときは、よりコアな作家性を出していこうという意識はあるかもしれませんね。
とはいえ、あくまでも作品を届けたい対象が違うから手法が異なってくるだけで、作り手としてのテンションは変わらないですよ。映画もドラマも、根っこの部分は同じですから」
──では、今後取り上げたいと思っている題材やテーマはありますか?
「一番やりたいのは、家族の話なんです。僕の作品は、表向きはホラーだとしても、家族の関係性というのは、常に裏テーマとしてあるので、そこは今後も追求していきたいなと。それと、性的マイノリティーの話にも興味があります。
あとは、犯罪をテーマにしたものですね。ここ何年かインディーズの映画作品という形で、こだわって描いている“加害者と被害者の話”を、一般の商業作品でもアプローチできたらと考えていて。一つの犯罪における、決して報道されない部分を描いてみたいんですよ。例えば、被害者側の事情って、ニュース番組なんかでは、デリケートな本音の部分まで掘り下げることはなかなか難しいと思うんです。つまり、個人的な感情に根差した当事者の本音は、ニュースやドキュメンタリーで伝えるには限界があるんじゃないかと。でも、映画やドラマというフィクションだったら、そこを補完できると思うんですよ。むしろ、人間の本質みたいなものは、フィクションの世界でこそ描けるんじゃないか、それを描くこともフィクションの役割なんじゃないかと思うんです」