「おっさんずラブ」3監督座談会・後編! でこチュー、別離、プロポーズ…名場面の舞台裏を告白【ドラマアカデミー賞】
第97回ドラマアカデミー賞で監督賞を受賞した、「おっさんずラブ」(テレビ朝日系)の瑠東東一郎監督、山本大輔監督、Yuki Saito監督が撮影を振り返る座談会の後編。今回は数々の名シーンの裏側を明かす。
(「おっさんずラブ」3監督座談会・前編! 田中圭と林遣都は『たぶん本当に付き合ってる(笑)』【ドラマアカデミー賞】から続く)
「演技が面白すぎて、これを監督として伝えなければというプレッシャーも」(Yuki監督)
――前編ではメインキャストの魅力をうかがいましたが、全員が自由自在に芝居をできる現場だったんですね。それを撮るのは監督としては楽しかったのではないでしょうか。
Yuki:そうですね。毎日、現場で段取りを見るのが監督の特権という感じでした。すごく面白い演劇を目の前で見られるわけですから。その反面、その芝居をどう撮るのがベストか、事前の撮影プランは捨ててでも、集中してカメラワークを考えました。
瑠東:それがむちゃくちゃ楽しかったです。なんというか、サッカーの監督に近い感じでしたよね。俳優という選手がフィールドに出ちゃったら、あとはお任せするしかない。だから僕らが出来るのはその才能を信じて、どんなサッカーをして試合に勝つかって事を考えるだけ。
山本:現場ではもう状況だけは作って、あとは役者さんに好きにやってくださいという感じ。芝居の面で苦労した覚えもないし、普通にサクサク撮っただけという感じもします。
Yuki:春田(田中圭)と牧(林遣都)なんてカットをかけなければ、永遠にイチャついている(笑)。第6話のころになると、僕もセンチメンタルになっちゃって、「もうすぐ終わっちゃう。この2人のやりとりを一生撮っていたい。ずっと見ていたい!」と思っていました。
「背景の光がハートになるのも手作り。アナログにこだわりました」(瑠東監督)
――カメラワークや映像の美しさもドラマの質を高めていました。こだわった部分を教えてください。
瑠東:僕にとっては「男と男のラブコメディーをどれだけアナログな撮影手法で撮れるか」ということに挑戦した作品でもありました。だから、CGは使っていません。特殊な機材も桜並木を空撮したときにドローンを使ったぐらいで、基本はローテクですね。
山本:各話のタイトルバックもアナログでしたよね。壁やガラス窓に「おっさんずラブ」って実際に書いたり、紙に1文字ずつプリントしてお酒の瓶に貼り付けたり…。
瑠東:第1話で部長(吉田鋼太郎)が春田に告白するシーンと、第4話で部長が春田に振られる場面では、背景の明かりがハートマークになっているんですが、あれもCGじゃなくて。光で模様が出るようにカメラマンが全部手作りでフィルターを作ってくれて、それを直接カメラに貼りつけて撮っているんです。
Yuki:第6話のブレーキランプで「アイシテル」のサインを出す場面もそうですね。僕は第3話、おしゃれなバーで部長と春田、蝶子(大塚寧々)が鉢合わせするところでは、ハイスピードカメラを使いました。一応、イメージとしては「M:I:III(ミッション:インポッシブル3)」のバチカンの階段の場面を意識して(笑)。3倍ぐらいのスローモーションにしたんですが、逆に早送りも使いましたし、あの場面は動きがあって楽しかったです。
「連ドラ版で変えたのは、春田の自宅を実際にある一軒家にしたこと」(瑠東監督)
――セットで印象的だったのは春田の家です。単発版では春田の自宅はマンションになっていましたが、なぜわざわざ撮影のしにくい実在の一軒家にしたのですか?
瑠東:最初にマンションも探したんですが、マンションではどうしても春田が33年間暮らしてきた生活感が感じられなかったんです。すると、制作部がすごくいい一軒家の写真を持って来てくれて。一発でこれで行こう!と。
山本:そこは瑠東さんが見事だなと。お母さんが出ていった後、春田が自立できていない感じが出ていていいなぁと思いました。
瑠東:玄関に虫かごがあるのは、春田は子供っぽさが残っている人だから少年時代のものを置きたかった。そこで、美術さんが玄関に虫カゴと虫取り網を用意してくれて。絶妙でした。苦労したのは家が狭いから、(モニターなどを置く)撮影ベースは玄関の外に作るしかなくて、もし雨が振ったら“終わる”っていうこと(笑)。
Yuki:2階の牧の部屋もめちゃめちゃ狭いので、そこに寝ている牧を撮るときは廊下から。入り口にいる春田を撮るときはベランダにカメラを置き、窓を開けて撮りました。