<試写室>「いだてん」宮藤官九郎流?孤独や敗北との戦い方
身一つで打ち勝つ四三と弥彦の姿に涙
まずは第10回の話をさせてほしい。
とにかく走り続けてきた四三と弥彦の物語が、第10回では少し足止めを食らっていた。
監督の兵蔵は体調を崩し、安仁子(シャーロット・ケイト・フォックス)はつきっきりで看病するため部屋から出てこないし、嘉納治五郎(役所広司)は不手際で到着が遅れている。
日本では多くの人々の「敵は幾万」の歌に見送られた四三と弥彦の周囲には人がいなくなり、応援の声もなく、心が折れた弥彦は窓から身を投げようとするまで追い詰められる。
初回から見てきて、一番感情移入できるキャラクターが痛快男子の三島弥彦になるとは思いもよらなかった。「てんてんぐー!」という掛け声とダンスを披露しては女子たちにキャーキャー言われてきた弥彦が、ストックホルムでは弱気な表情ばかり見せている。
そして第11回、四三に先立って弥彦が短距離走に出場する。
私の知っているプレッシャーなんて、四三と弥彦に比べればちっぽけなものだろう。でも、日本にいる人々からの期待に押しつぶされる気持ち、すごく分かる。それに応えられない自分への腹立たしさも。
あらすじにもあるが、弥彦はレースで惨敗する。しかし、レースを駆け抜けた弥彦が見せる清々しい表情には、勝利と同じくらいの喜びが表現されており、それはそれは素晴らしいシーンになっていた。痛いくらいに眩しい笑顔が胸に突き刺さる。
きっと、この敗者の表情を描くのが“宮藤官九郎の脚本らしさ”なのではないだろうか。
個人的な感情ばかり書いてしまった。しかし、こんなもんじゃない。もはや、このドラマについては書きたいことがあり過ぎて、試写室に不向きだとすら思う。
とりあえず、見どころをつらつらと並べてみよう。今まで「いだてん」を見てきた人には、弥彦の母・和歌子(白石加代子)の言葉に涙するでしょう。最初だけ見て視聴をやめていた人は、ストックホルムのスタジアムの綺麗さに度肝を抜かれるでしょう。初めて見る人も兵蔵から弥彦へのアドバイスに元気づけられるでしょう。
“生田斗真ファン”は、肉体美にうっとりすることでしょう。そして、“中村勘九郎ファン”は、とあるシーンであまりのキュートさに倒れることでしょう。
完全無欠の弥彦が負ける姿は、かっこ悪いけどかっこいい。海外で孤独だということに劣等感を覚えつつ、それがちょっとかっこいいと思ってた18歳の私よ。
人って意外と孤独にはなれないし、変な外国語って意外と通じるよ。