読売文学賞受賞の桑原裕子率いるKAKUTAが2年ぶりの新作上演!
劇団KAKUTAの2年ぶりの新作となる舞台「らぶゆ」が6月2日(日)から開幕する。豪華客演陣、新劇団員とともに、初の本多劇場に挑む。第70回読売文学賞・戯曲シナリオ賞を受賞した劇作家・演出家・俳優の桑原裕子に、今の心境と本作について語ってもらった。
「昨年『ねこはしる』という作品を劇団で作ったので完全な休団期間は約一年ほどだったのですが、20年ほぼ休みなく公演を打ち続けてきたKAKUTAにとっては貴重なお休みでした。この期間に互いを見直し、新しい風を取り込んで、力を蓄えることができました。読売文学賞をいただけたことは本当に身に余る光栄で、とてもありがたいことに注目してくださる方が増えたなと思います。でも過剰なプレッシャーは感じないようにしているというか、劇団で面白いことをやりたい、という気持ちに今は集中しています」。
さらに、今回劇団として初の本多劇場進出!
「本多劇場は大好きな劇場で、私自身も初めてなんです。もう長らく憧れの場所でした。だから、ああやっと立てる…!!という気持ちです。KAKUTAが再始動しようという今、この舞台に立てることが本当にうれしいですし、新劇団員にとっても、こんな機会が入団後すぐに訪れたわけですから、“あんたたちなんてぜいたくなんだ!”って思います(笑)」と気合いも十分。
タイトル「らぶゆ」からもわかるように、今回の作品のテーマは「愛」だが…。
「お恥ずかしながら新作の場合、先にタイトルを決めて作品をつくることがほとんどで、内容がすでに決まっていることはほぼないんです。といってやみくもに名前を決めているわけでもなく、今一番心の中心にあるものを探すような感じでいつもタイトルをつけているのですが、『らぶゆ』というタイトルが出てきたのは自分自身でも意外でした。ある意味ひねりが全然ない直球のテーマが今自分の真ん中にあったことが新鮮で。でも今、劇団全体が持っているムードも含めて、このタイトルがハマったんだなと思います。
実はこれまで、真っ向から愛について描きますと銘打ったことは一度もないので、決めてから“えらいことをしてしまった…”みたいな感じでかなり悩みました。今作も、どこが『らぶ』なの?と疑問に思うようなひねくれた設定です。出てくるのは、愛に似たもの、愛と呼べぬもの、愛と信じたいもの…愛のなりをした“なにか”です。それらを見ながら、お客さんも一緒に『らぶゆ』を探してもらえたらいいですね」。
客演のキャストが豪華なのも見逃せない。ナイロン100℃のみのすけ、松金よね子、中村中、小須田康人がKAKUTAに初出演だ。
「この4名の客演陣は、昔から憧れと尊敬を抱いてきた大好きな方々なのですが、同じ演劇界にいてもそれぞれ実はフィールドが違うというか、ご一緒している姿をあまり見たことがないなと思っていたんです。中ちゃんはもちろん音楽界からの参入でもありますし。そんな4名が混じり合う様子を見たかったというのがまずあって。なので、それぞれが互いに濃く絡む役どころになっています。小須田さんはリーダーシップとカリスマ性を持ちながら、その翼をもがれた男の役。エゴと愛情のあいまいさや、自尊心と諦念の心の揺れ動きを細やかに、かつ激しい振り幅で演じています。小須田さんのカリスマ性が稽古場でもギラギラしています。みのすけさんは、人生楽勝と思って生きてきた男が、これまで持ち合わせてこなかった自身の人間性と初めて向き合う役。みのすけさんて本当にフラットな音を持っている俳優さんで、過剰に感情や状況を説明するようなことをせず、こちらが自由に想像する余白をくれるところが私は大好きなんです。普通にしているのに、常に不思議な狂気と愛きょうがある。それでいてベクトルがズレることは決してない。それができる俳優さんて本当に少ないし、夢中で見てしまいます。中村中ちゃんの役は、どう伝えれば良いのかむずかしいのですが、私にとっては『裸一貫』の役どころだと思うんです。別に舞台上で脱ぐとかってことではなくて、心をむき身にして臨まないといけない、苦しい役。中ちゃんは本当に“魂のすごみ”がある人で、彼女の全力を見せられると稽古場でもぶわっと鳥肌が立ちます。『一見普通に見えるアウトローたち』が今作の登場人物の共通点でもあるんですが、ある意味、松金さんはもっともアウトローな役といえるかもしれません。本当は立ち上がれないほど重い鉛の背負子(しょいこ)を担いでいるのに、そう感じさせずピョンピョン弾んで歩いている人。こんな複雑でキュートな魅力は松金さんにしか出せないんじゃないかな」。
緻密に考えられた役どころは桑原ならではといえる。
2年ぶりの新作、名誉ある賞を受賞し、劇団や桑原が今話題になっているのはまた別の要因もある。KAKUTAが2011年に上演した「ひとよ」が、佐藤健、鈴木亮平、松岡茉優、田中裕子のキャストで白石和彌監督の新作映画として撮影中だ。
「上演当時の『ひとよ』は、さほど多くの人に注目された作品ではなく、ただ私たちKAKUTAにとっては、かけがえのない作品になったという自負がありました。それがこのように今、目に留めていただき、新たに生まれかわっていることを思うと、自分たちが大切にしてきたものがちゃんと誰かの心に届いているんだなと改めて思います。『らぶゆ』もきっとそんな作品になると思います。再出発の公演であると同時に、KAKUTAの集大成と言える作品。まだ生まれたてで、荒削りかも知れませんが、間違いなくKAKUTAの大切な一作です。どうぞ、その産声を劇場で聴いてください」。
KAKUTA最新作「らぶゆ」は6月9日(日)まで。