<映画アドバイザー・ミヤザキタケル厳選作品連載>第5回 現実と見紛う映画体験をあなたに【ザテレビジョンシネマ部】
映画アドバイザー・ミヤザキタケルがおすすめの映画を1本厳選して紹介すると同時に、あわせて観るとさらに楽しめる「もう1本」を紹介するシネマ・マリアージュ。
第5回は、誰もが目にするPCやスマホ画面越しに物語が展開していく『search/サーチ』と、事件の当事者が本人役で出演している『15時17分、パリ行き』をマリアージュ。
『search/サーチ』(2018)
インド系アメリカ人、アニーシュ・チャガンティの長編監督デビュー作。全編にわたりPC画面上で物語が進む異色作ながら、姿を消した娘をSNSなどを使って捜す父親の姿を通して、本当に大切な他者とのつながりを描きヒットを記録した作品です。
PC画面上だけで物語が展開していく。そんな斬新な設定で、どんなふうに描くのか、そもそも成立するのか、一抹の不安を感じてしまう人もいるだろう。だけど、これっぽっちも違和感はない。語弊があるかもしれないが、新鮮味すら感じない。なぜならば、今この時代を生きる僕たちにとって、PCやスマホ画面に向き合うことが日常と化してしまっているからだ。
写真や動画、ビデオ通話アプリ、各種SNSの画面を駆使する本作では、既読にならない不安やイラだち、ネットのつながりに甘んじて希薄になりがちな対人関係、ネット上にさらされている個人情報etc…、現代人だからこそ理解できる描写の数々が、みごとに映画の世界観に落とし込まれている。
そして、何よりスゴイのは、先のストーリー展開がまったく読めないということ。読めたつもりでいても、その答えではまだ足りない。真の答えは二歩三歩先にある。綿密に張り巡らされた伏線とミスリードの数々によって、観る者に父親と同じ歩幅で作品世界をさまよい続けていくことを余儀なくされる。
今のご時世、スマホやネットなくして生きてはいけない。なくなったらなくなったでどうにでもなるのだろうが、便利で効率的に生きられるなら、ないよりあった方が良いに決まっている。ただ、善意をもって活用する者もいれば、悪意をもって活用する者もいる。使い方一つで、他人を傷つけ、欺き、陥れることができてしまう。必要な情報だけを選別しているつもりが、気付かぬうちに悪意にさらされていることなんて日常茶飯事。ネットに転がるあらゆる情報をつなぎ合わせていけば、本名や住まい、交友関係・趣味・性的嗜好さえも割り出されてしまう。アカウントを乗っ取られたり、スマホやPCを丸ごと奪われたのなら、完全にOUT。この作品は、そんな現代社会に対する警鐘を鳴らしつつ、ネットを用いずとも他者との関係性が築けているかどうかを問うものでもある。