<映画アドバイザー・ミヤザキタケル厳選作品連載>第5回 現実と見紛う映画体験をあなたに【ザテレビジョンシネマ部】
娘を捜し出すため娘のSNSなどに触れていく父の姿に、あなたは一体何を思うだろう。家族といえども知られたくない個人の世界。それを知られてしまう恐怖はもちろん、知りたくなかったのに知ってしまう恐怖が劇中には満ちあふれている。だが、SNS上では本当の本当に大事な想いまでは突き止められない。その想いが真に垣間見える瞬間があるとすれば、目の前にいる相手と本気で関わった時だけなのだと思う。
うわべの言葉や情報ばかりを過信して、僕たちは直接言葉を交わしたり面と向かって相手に問いただすことを避けてしまいがち。ググって探り当てたことばかりを真実とし、一から地道に調べることもなかなかしない。他者を気遣う心があったとしても、伝え方を間違えれば無関心なのと変わらないし、明確な意思や努力の上に成り立つ平穏でなければ、ささいなことで崩れ去る。ネット上のつながりは常にそんな危うさを内包している。
もはや日常と化してしまっているPCやスマホとの付き合い方、大事な人たちとのつながり方、それらを今一度見つめ直すキッカケをこの作品は与えてくれると思います。
『15時17分、パリ行き』(2018)
2015年8月21日に起きた、タリス銃乱射事件を綴るクリント・イーストウッド監督による実話ベースの物語。乱射事件の犯人に敢然と立ち向かった3人の若者が歩んできた半生と事件の細部を通し、なすべきと信じたことを貫く勇気を描いた作品です。
『search/サーチ』によって現実とフィクションの境目が揺らぎ始めたのなら、実話をもとにしたこの作品は、より強くあなたの心を突き動かすことになるだろう。また、本作はただの実話作品とは少し違う。実際に事件に直面した当人たちを俳優として起用するというまったく新たな手法を用いており、言ってみれば僕たちと同じ一般人がそこにいる。隣り合わせの世界が、寄り添うことしかできない現実がそこにはある。