「きのう何食べた?」安達奈緒子が脚本賞 『二人の世界を突きつめて描けるのは奇跡のような感じがしました』
2019年春クールのドラマが対象の「第101回ザテレビジョン・ドラマアカデミー賞」で、ドラマ24「きのう何食べた?」(テレビ東京系)を手掛けた安達奈緒子氏が脚本賞を受賞した。よしながふみの同名漫画の実写化で、シロさん(西島秀俊)、ケンジ(内野聖陽)という男性カップルの日常を描いた同作。連載中の原作にちりばめられたエピソードを12話の連続ドラマに落とし込んだ手腕や、心温まるセリフの数々に多くの票が集まった。
そんな安達氏に作品に込めた思いや、原作の魅力などをたっぷり語ってもらった。
原作の魅力は「何気ない日常を切り取る、鋭い目線」
――TV記者、審査員から多くの投票があり、脚本賞に選出されました。受賞のお気持ちをお聞かせください。
大変光栄な賞に選んでいただきまして、とても嬉しく思います。ありがとうございます。
――原作コミックも人気の高い作品ですが、安達様はどんなところに魅力を感じましたか? ドラマ化するにあたって、特に意識して生かしたのはどういった部分でしょうか?
第1巻冒頭の数ページ目にあるシロさんの、「何が激安だよ、ごんべんのつゆの素の底値は299円じゃねーか、騙されねーぞオレは」。このセリフとシロさんの表情で、この人はわたしと同じ日常を生きてる、と心をわし掴みにされました。わたしもごんべんの(本当は違う名前ですが)つゆの素は美味しいけれど高いから、つい他のメーカーのものを買ってしまったり安くなるのを待ったりしていたので、自分の生活を覗かれているような感覚を覚えました。
こうした何気ない日常を切り取る、よしながふみさんの繊細かつ鋭い『目線』がこの作品の魅力であり、読者の皆さまの心を掴んでいる一因だと思います。些細なことかもしれないけれど同じように感じている人はいて、同じように一喜一憂しているのだと思わせてくれる、「わたしたちは交わることはないけど、わりと一緒だよ」と励まされているような、サバサバしているけれど優しい、そんな空気感がとても好きです。
作品の形態としては、全体的には言葉数が多いのに、ここぞというときには、絵の線も言葉もグッと少なくなる、その『叙情的な空白』みたいなものを大切に表現できればと思っていました。
――中年の男性カップルの日常を描く作品ということで、その描き方には気を遣うこともあったかと想像しますが、悩んだ部分、苦しんだ部分などはありましたか?
悩む、苦しむ、というよりは、原作が内包する本質に驚くことのほうが多かったように思います。
お互いを思い合う二人の人間を描く、という表現において、大人の同性同士だとこんなにもフラットに描けるものなのかと何度も驚かされました。男女の恋愛、結婚、同居は、どう対等に描こうとしても性差は拭いきれず、本人たちではどうすることもできない不平等感が雑味として残ってしまいます。けれどシロさんとケンジさんは経済的にも年齢的にも精神的にも基本は対等、関係性のバランスはあくまでも本人の問題とそのときの彼らのムードによってのみ変わる、とにかく純度が高いので、ひたすら二人の世界を突きつめて描けるのは何か奇跡のような感じがしました。