子どもを信頼して映画を作っているのだな、と私は思った。多くの子どもが喪失感を持っている、と、子どもたちは繊細な感情を読み取れる、と信じて、脚本を深く練り、キャラクターの表情を淡く丁寧に描く。
たぶん、子どもは、サービスしてもらうことよりも、信頼してもらうことを喜ぶ。だから、観る人をバカにせず、感性を尊重して作品を作ることが一番重要なことになる。
おそらく、多くの子どもが「若おかみは小学生!」を観て感動するに違いない。そうして、私も泣いてしまった。
なんで泣いたのだろう。なんというか、アニメのパワーだと思う。脚本の構成、キャラクターの動き方、絵の色、いろいろなものが合わさって、ぐっとくるシーンが生まれる。
とくに、脚本が良い。小説はPART20まで出ていて、さらに特別編なども書かれているらしいし、子ども向けということもあり要素が豊富に違いなく、映画向けに短縮して構成し直すのは大変だっただろう。
ストーリーとしては、「若おかみは小学生!」というタイトル通り、小学六年生の女の子である主人公のおっこが、祖母の経営する「春の屋旅館」という旅館に住むことになり、みんなに助けられながら若おかみとして成長していく……、というものだ。
予想通りの話ではあるのだが、喪失感を受け入れていくところ、周囲の人たちとの関係の築き方、成長の過程……、といったものが、根拠のある表情や動きで描かれ、きちんと物語に乗って進んでいくので、観ているとラストに向かって気持ちが盛り上がる。
あと、ライバルの「ピンふり」という女の子のキャラクターがすごく良かった。好きにならずはいられない。登場したシーンから、あからさまなライバルキャラクターなので笑ってしまった。
春の屋旅館よりずっと大きい秋好旅館の後継ぎで、いつもピンクのふりふりのドレスを着ていて、偉人の名言を引用しながら喋るという、いかにもなキャラクターだ。
「でも、たぶん、最後には仲良くなるんだろうね」と予想すると、実際、その通りに進んでいくわけだが、登場する度に魅力が増し、物語を彩っていた。こういうライバルキャラクターは、私の子どもの頃の少女マンガや少女小説にも「お決まり」という形で登場していたものだが、今回、この映画を観て、しみじみ「いい関係だなあ」と感じた。
私は、家族でこの映画を観たのだが、0歳児は生まれて10日の新生児で終始眠っており、3歳児も最初は面白がっていたが途中で眠ってしまい、もう少し大きくなってからの方が理解が進みそうだった。
でも、おそらく、小学生以上ならみんな面白く観るだろう。70代、80代の人でも面白く感じるかもしれない。
子ども向けのアニメを観る、ということに最初は気恥ずかしさがあったのだが、観終わってから、侮ってはいけないな、と反省した。これから、子ども向けの映画はもちろん、子ども向けの小説やアニメにももっと触れていきたい、と思った。
文=山崎ナオコーラ
作家。1978年生まれ。2004年にデビュー。著書に、小説「趣味で腹いっぱい」、エッセイ「文豪お墓まいり記」「ブスの自信の持ち方」など。目標は「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書きたい」。