「声小さっ!」「聞こえませーん!」
吉祥寺でのストリートライブで、集まった聴衆から罵声を浴びせかけられるバンド・ボーカルのふうか(吉岡里帆)。自信がなくて内気な彼女は、強めの主張が必要な路上で歌っているくせに、恥ずかしくてデカい声が出せない。そんな折、「音量を上げろタコ!」と全力でダメ出しをかます、カリスマ的なロック・スターのシン(阿部サダヲ)と運命の出会いを果たす…。
その名も『音量を上げろタコ! なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!(2018)』(9月27日夜9:00 WOWOWシネマほか)というやたら長いタイトルの映画の主人公である、声が異様に小さいストリート・ミュージシャンの女の子。この特異なヒロイン像を創造したのは奇想天外なコメディの天才、三木聡監督だ。
もともと放送作家として『ダウンタウンのごっつええ感じ(1991~1997)』など数々の伝説のバラエティ番組に参加していた彼の映画は、シュールな脱力とハイテンションが珍奇な配合で入り交じる、恐ろしく緻密な計算で構築された独特の世界。巷では“小ネタの鬼才”とも呼ばれ、「焼売になぜグリーンピースを乗せるか知ってる?数をかぞえやすいようにだよ!」(カーリーヘアーのカツラを装着した松尾スズキ扮する“ザッパおじさん”のセリフ)など、くだらないギャグからこだわりのディテールまでハンパない情報量が詰め込まれる。
こういった三木聡ワールドの中から立ち上がってくる、もうひとつの卓越点には「女優プロデュース力」が挙げられるだろう。三木作品のど真ん中にぶっ込まれた女優は、みんな演出スタイルとの化学反応が起きて新たなコメディエンヌとして光り輝くのだ。
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