とりわけ『音量を上げろタコ!~』は、主演の吉岡里帆を観るための映画と断じても過言ではない。AC/DCやKISSのロンTを普段着や寝間着で着用しているキュートな姿から、やがて“ライク・ア・ローリング・ストーン”な怒濤の運命の中で覚醒していく魂の熱量。
吉岡里帆といえば、等身大のナチュラルな役柄のイメージが強いが、ここで発揮されているのは“ヘンな魅力”。それは彼女の新境地でありつつ、同時に吉岡がブレイク前に出演したインディペンデント映画『イルカ少女ダ、私ハ。(2014)』のイルカ少女役のオフビート感を想起したりもする。本作の後半は韓国に舞台を移すのだが、内気女子の心も映画のトーンもだんだん本気(マジ)になる。あいみょん作詞・作曲による「体の芯からまだ燃えているんだ」を吉岡がエモーショナルに歌いこなすクライマックスは圧巻!
さて、この「女優プロデュース力」という点でもまず必見の三木作品が『インスタント沼(2009)』(9月27日深夜2:30 WOWOWシネマほか)だ。主演は麻生久美子。『音量を上げろタコ!~』では怪しげなアンダーグラウンドの女医役を、人気テレビ・シリーズ『時効警察(2006)』ではヒロインの三日月しずか役を務めており、三木聡ワールドではお馴染み。ここで彼女が演じるのは、やはり数奇な運命を辿るハナメ。最初は雑誌編集者として登場するが、担当していた雑誌が休刊になったことで出版社を退職。好きな男にもフラれ、人生の夏休み状態に陥った彼女は、まだ見ぬ実の父親を訪ねる旅に出ているうち、いつしか骨董品屋に…。
冒頭から和服や特攻服、セーラー服まで、ここでの麻生は着替えまくり。メインの衣装は「les Briqu'a braque(レ・ブリカ・ブラック)」や「MATRIOCHKA(マトリョーシカ)」を手掛けるデザイナーの山瀬公子が担当。ヴィンテージ・クローズやリメイクを根幹とする山瀬の衣装と、ハナメが骨董品屋になっていく展開は有機的につながっており、やがて「ある人にとってはゴミでも、ある人にとっては宝物である」という再生利用の価値観の発見に至っていく。
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