吉沢亮、東出昌大、古川雄輝…ひとり二役映画で味わう俳優の魅力<ザテレビジョンシネマ部>
ひとりの俳優が劇中、2人の人物を演じること──そう、難易度の高い“ひとり二役”は役者のキャリアにとって古今東西、ステップアップを示す格好の設定だ。
例えば日本映画でいえば今年、吉沢亮が『キングダム(2019)』で彼の熱烈なファンだけでなく、広く原作フォロワーのあいだでも認められたのが記憶に新しい。すなわち、戦争孤児の主人公と同じ境遇である盟友・漂(ひょう)と、中華統一を目指す若き王・嬴政(えいせい/後の秦の始皇帝)というストーリーの要となる二役を担って、その演じ分けの巧みさが絶賛されたのだ。
ファンが「推しの役者」を支持するのは当然だが、ひとり二役という設定は、演じ手の力量が目に見えて分かるのでそれ以外の人々の心をも如実につかんでしまうのである。というわけで今回、昨年公開されて話題を呼んだ『寝ても覚めても(2018)』(10月6日夜9:00 WOWOWシネマほか)の東出昌大と『風の色(2018)』(10月15日夜6:45 WOWOWシネマほか)の古川雄輝をピックアップしてみた。
まずは第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品された濱口竜介監督の『寝ても覚めても』。芥川賞作家・柴崎友香による同名恋愛小説の映画化だが、東出昌大はここで「優しく誠実なサラリーマン・丸子亮平」と「ミステリアスな自由人・鳥居麦(ばく)」という対照的なキャラクターを体現してみせる。唐田えりか扮するヒロインがかつて愛した男が「麦」で、彼が不意に姿を消した2年後、同じ顔をした、大阪から東京へと転勤してきて出会ったのが「亮平」だ。
一度は「亮平」と過ごす新たな時間の中で過去を乗り越えたかのように見えたが、突如「麦」が戻ってきて、2人を引き裂こうとする。同一画面上に「亮平」と「麦」、W東出が並ぶシーンのスリリングなこと! 揺れ動く女性の心情が描かれていくとともに、まるでエイリアンのごとき「麦」の存在感が強烈で、次第に「亮平」の性格にも化学反応が起きていく展開がすさまじい。そういったケレン味に見事リアリティを与え、東出昌大はこの映画で大きく飛躍した。