周防監督「それぞれの役を楽しんでもらっています」
――お二人は、それぞれこれまでの作品と比べて「カツベン!」は違う、という感触はありますか?
周防:明らかに、それぞれの役者さんに伸び伸びやってもらって、その役者さんが本質的に持っているものが出ていますね。こっちでこういう役って決めず、その役者さん本人自らが、ご自身の解釈の中で伸び伸びと、それぞれの役を楽しんでもらっています。今回は意識的に、そういう映画を目指しました。
いつもなら、もうちょっと自分の思う枠の中に、いくら「ご自由に」と言ってもどこかに枠組みを持っていたかもしれないですけど、今回はそれが全くなく。ただ、役者さんたちにも役を楽しんでもらいたいなと。だから僕も楽しかったんですかね。
成田:僕も、自分以外の役者さんたちが伸び伸びやられているので、それが今回一番勉強になったところかな。現場のテンション感っていうものは、最初は分からず、徐々につかんでいくものですが、分かんないものは「とりあえずやってみましょう」っていう監督でよかったなと。
そのおかげで多分、この現場を経て作品への向き合い方が変わった、っていうのはあるんです。もちろん、初めて主演をやったっていうのもあると思うんですけど…。
どう変わったかというと、現場を楽しく、お芝居を楽しく…ですかね。「この脚本の中でどのくらいできるんだろう」っていう境目を探すというか。そういうのを竹中(直人)さんとかがいっぱい見せてくださるので(笑)、その境目で戦っていく感じ。
それは楽しまないとできないし、理解がないとできないし、余裕がないとできないことだと思うんです。
余裕を持って楽しむ、っていう、それはすごいシンプルなことですけど。そのシンプルなところに、仕事をしていると意外と戻れないから。
「みんなで作品を作っている」「みんなで楽しく作りましょう」というところにもう1回頭が戻ったといいますか。楽しむ。すごいシンプルなところに、常に持っていけたらいいなって思うようになりました。
――なるほど。成田さんは、活動弁士という職業について、役者として精神的に共感する部分はありましたか?
成田:相手がいない、反応がない状態で演技を順番にしていくところはやはり全然違います。活動弁士というのは敵も味方も自分の中に作って、すべての作品のバランスを見て、すべてを決めて、すべてを順番に見せていく。
でも僕ら役者はバランスとかはあんまり考えないというか、その瞬間、相手次第で生まれるものっていうのがやっぱりあると思うので。
逆に似ている部分は、お客さんの反応でまた変わっていくっていうところですね。もちろん全然違いますけど、表現という意味では、ある意味一緒だと思います。
だから僕自身が活動弁士だったら、やっぱり僕が演じた俊太郎みたいに、お客さんにどうやったら面白く伝わるかっていうことを、すごい考えていると思います。先輩たちの物まねをしながら、それぞれの良さを取り込んで、自分のオリジナルを作っていく。そういう心がけでやっていけたらいいなと思いますね。
――監督として、活動弁士という職業に共感する部分はありますか?
周防:カツベンは、最後の演出家で、監督のような面も備えてますからね。監督・主演もするチャップリンとかそういう存在がイメージしやすいのかなと思います。それに加えて、芸人でもあります。成田さんの言うように、その場の反応も見ながらしゃべり方も話の組み立ても変えてしまう。とても特殊な仕事だと思います。
監督だけとも言い切れないし、ナレーターでもないし。自分で台本書いて、自分が演じて、演出も考えながら、客の反応で変えていくって、すごい仕事ですよね。落語家に近いかもしれないですけど、映像があるので、また違いますし。
実際、人気弁士だった徳川夢声さんも、活動弁士を引退されたその後、元祖マルチタレントって言われるくらい活躍されました。
実は僕も七・五調で畳み掛けるのは大好きなので、そういう意味で弁士みたいな語りを聞くのは大好きなんですよ。講談も、浪曲も好きだし、短歌も俳句も好きです。でも、映画監督として考えたときに、どうしても映像のリズムがあるので、全てを七・五調で語るというのは考えにくいですよね。聞いちゃえば成立するのかもしれないけど、自分で語るのは難しいかな。
やっぱり「映画は映画だよな」っていう感覚があります。俊太郎の憧れの弁士で、活動弁士の仕事に限界を感じ酔っ払って舞台に上がるようになった山岡秋聲(永瀬正敏)は徳川夢声さんが一部モデルなんですけど、彼も実際、映画につける口数がどんどん少なくなっていったそうです。
きっと、映画の力が彼にそうさせたんだと思います。もし、トーキーの時代が来なかったら、彼がどんなカツベンを作り上げたか興味深いですよね。
――個人的には、山岡さんは自分と同等の読み取る力を、観客にも期待するようになってしまったのかな、と切なく見てしまいました。
成田:もちろん観客が求めるものは違ったんだろうけど、でも、山岡さんは当たり前の中から抜け出した人というか、みんな当たり前にしゃべってることを、いや違うぞ、当たり前じゃないぞ、俺はこう思う、と、たくさん敵を作りながらやった人でもあると思います。
すごいですよね。お客さんのためじゃないようで、お客さんのためというか。当時それができる力っていうのはすごいと思います。
周防:やっぱり、映画自体が持つ力が大きかったんじゃないかなと思います。
公開中
出演=成田凌、黒島結菜、永瀬正敏、高良健吾、音尾琢真、竹中直人、渡辺えり、井上真央、小日向文世、竹野内豊
監督=周防正行
脚本・監督補=片島章三
(C)2019「カツベン!」製作委員会
【公式HP】http://www.katsuben.jp/