柄本佑、石橋静河、染谷将太ら出演の『きみの鳥はうたえる』と『レディ・バード』が映し出す青春時代の儚さと愛おしさ<ザテレビジョンシネマ部>
映画アドバイザー・ミヤザキタケルがおすすめの映画を1本厳選して紹介すると同時に、併せて観るとさらに楽しめる「もう1本」を紹介するシネマ・マリアージュ。
第13回は、子どもから大人へと変化していく際の繊細な心の機微を綴った『レディ・バード』(3月22日[日]よる9:00 WOWOWシネマほか)と、大人になれど、何をもって大人になったといえるのか、どうしたら一歩踏み出すことができるのか、永遠のようでありながらも一瞬のうちに過ぎ去っていく20代の悶々とした時間を描いた『きみの鳥はうたえる』(3月26日[木]午後2:50 WOWOWシネマほか)をマリアージュ。
『レディ・バード』(2017)
女優としても活躍するグレタ・ガーウィグの自伝的要素を盛り込んだ単独監督デビュー作。家族・友情・恋・将来に思い悩む17歳の女子高校生、自称“レディ・バード”ことクリスティン(シアーシャ・ローナン)の姿を通し、子どもから大人へ変化していく過程、離れてみないと気が付けない家族や故郷のありがたみを描いた作品です。
誰にも等しく訪れる17~18歳という時間。自分は何者にでもなれると信じて疑わず、親や教師の言葉が耳障りに聞こえて仕方がなかった。だが、どれだけ強がったところで、しょせんは親の存在なくして生きることができなかった時間。
肉体的には大人と遜色ないが、精神的にはまだまだ未熟なままで、そのギャップを埋めようと手探りでもがいていた時間。家族のしがらみや友人関係、恋愛や将来への不安など、さまざまな葛藤を抱えるクリスティンの姿を目にすれば、きっとあの頃の自分と、あの頃抱えていた想いと再会できることだろう。
離れてみて初めて気が付ける親の愛や親への感謝。大人になれば、人の親になれば、否が応でも身にしみる。とはいえ、10代の間は、親に守られているのが当たり前のうちは、その苦労もありがたみにも気が付けない。
何事においても言えることだが、今ある日常を「当たり前」のものと感じている以上、そこに価値は見いだせない。どんなに嫌なことがあっても、家に帰れば家族がいた。いつだって見守っていてくれて、何か起きれば体を張って守ってくれた。
クリスティンもまた、周囲の人々に守られ、まだ多くの責任を背負わずにいられた。大人になってから、そんな時代に戻りたくとも戻れないのは、年齢を重ねているのはもちろんのこと、既にあまたの責任を背負ってしまっているからに他ならない。
また、人によっては守られる側から守る側に転身しているし、無条件に愛情を注いでくれる大切な存在がもう身近にいない場合もあり得る。
親の存在がどれだけ偉大で、故郷があることがどれだけ安心できることなのか、まだ乏しい人生経験の中で懸命にあがいていたあの頃の僕たちは知らなかった。
親子関係や家庭環境は人それぞれに異なるけれど、劇中のクリスティンらを目の当たりにすれば、かつて過ごした日々が、家族・友人・先生たちとのつながりや思い出が鮮明に甦る。僕らは一体どのようにして大人になったのか。
子どもから大人へと至るまでの過程で生じる繊細で危なっかしくて不安定な心の機微を、儚くも忘れ難い人生の刹那をとても丁寧に描くこの作品は、あの日踏みしめた大人の階段の一歩目を思い出させてくれるはず。