映画としての面白さ
ここまで映画「キングダム」が、いかに原作をリスペクトして制作されてきたかを書き綴ってきたが、では本作は原作ファンだけが楽しめる映画なのか、というと答えはノーだ。世界観や設定、登場人物たちの心の機微がしっかりと丁寧に描写され、ストーリーがわかりやすく進んでいくため、原作を全く知らない人たちも、十分に堪能できる。
ド迫力のアクションや映像美は、コアな映画ファンをも唸らせるほどだ。つまり、一映画作品として楽しめるだけの完成度の高さと大スクリーンで見る意義を感じさせるため、原作ファンも映画ファンもそれ以外の老若男女も……とにかく多くの人を取り込めたというわけである。
二次元を三次元にする意味
ここまで、「キングダム」の実写化成功の理由を長々と語ってきたが、そもそも二次元を三次元にする意味とは一体何なのだろうか。もちろん人気作品ゆえ、ある一定の集客を見込めたり、話題性に長けていたりと、収益面でのリスクの低さといった制作サイドのメリットは挙げられる。そういった商業的な部分ではなく、もっと本質的なところ。つまり、ひとつの作品を二次元と三次元の両方で表現することの意義とは何かだ。
二次元と三次元には、それぞれ違うメリットがある。たとえば、二次元は生身の人間では難しいことを描写できたり、生々しくない完璧な美しさを築けたりと、現実ではありえないことも描くことが可能だ。一方で三次元は、生身だからこその臨場感や迫力、リアルさを醸し出すことができる。極端に言えば、二次元での非現実を三次元で現実にでき、三次元での現実を二次元で非現実にできるということ。
また漫画、アニメ、実写映像というコンテンツ区分で考えると、漫画は声や音、色など読み手の想像にゆだねる部分が多い。だからこそ、それぞれが好きなように解釈でき、作品の幅が広がるように思う。アニメは非現実のものに現実の音を加えることで、世界観をあまり崩さずに、キャラクターに息を吹き込む。
まるで画面の向こう側という別の世界で、彼らが本当に生きているかのように錯覚させる(個人的には、スポーツやアクションものなど“動き”がある漫画が最もアニメ化に適しているように思う)。実写映像は、非現実だったものが現実に召喚されるイメージだ。より、作品やキャラクターを身近に感じられる。
よって、全編を通してあまりにもCGが多用されていると、アニメと実写映像の境界線があいまいになってしまい、どんなに原作を忠実に再現していたとしても、観客が実写でみたいと思う意欲をそぐ原因になってしまうのではないだろうか。
映画「キングダム」は、この漫画/アニメ/実写映像の塩梅が実に絶妙なのだ。原作が史実を参考にしているため、そもそも三次元を二次元に落とし込んだ作品とも言える。すなわち、実写化することで生まれる違和感が比較的少なく、またあからさまなCGを多用する必要もない。加えて、実写化するメリットを最大限に活かしている。
たとえば、生身のアクションや広大な風景によって臨場感や迫力が増す。歴史ものだからこそ、より壮大になり、現実感が生まれるのである。原作ファンにはリアルな高揚感を、原作未読者には作品の世界観に入りやすく、没入感を。
こうして構造を紐解いていくと、映画「キングダム」が2019年実写邦画No.1を勝ち取るほどヒットしたのも頷ける。だが、もちろんここに挙げた理由だけがすべてではないし、成功した漫画原作の実写化すべてにあてはまるわけでもない。
たとえば、“努力・友情・勝利”をテーマにした少年漫画と“憧れの青春と恋愛”を詰め込んだ少女漫画では、実写化する際に成功する鍵は、また微妙に異なってくるはず。だが、どんなジャンルの漫画であったとしも、原作への深い愛とファンもそれ以外も楽しめる丁寧なストーリー描写は、ヒットには欠かせない重要な項目となってくるに違いない。
※山崎賢人の「崎」は正しくは「立さき」