<西野亮廣>ゴミ人間〜『えんとつ町のプペル』誕生の背景と込めた想い〜「えんとつ町のプペルが生まれた日」【短期集中連載/第4回】
『えんとつ町のプペル』という物語を描き終えたときに、「この作品は映画で届けるべきだ」と思いました。ところが、誰も知らない作品を観る為に、わざわざ映画館まで足を運んでくれる人などいません。何より、アニメーション映画を一本制作するとなると、大きな予算が必要になってきます。誰も知らない『えんとつ町のプペル』に、そんな予算がつく理由は一つもなく、映画化なんて夢のまた夢。
そこで、まずは絵本として世に出して、認知を獲得し、その後、映画に繋げようと考えました。絵本の届け方に関しては手応えを掴み始めていた頃でした。
ところが、『えんとつ町のプペル』は、絵本として出すには物語が長すぎます。「殴ってしまう人」「えんとつ町が生まれた理由」「異端審問所」、そして主人公の「ブルーノ」を入れてしまうと、とても一冊には収まりません。そこで、それらを省き、物語の一部分だけを切り抜いて再編集したのが、絵本『えんとつ町のプペル』です。
絵本『えんとつ町のプペル』は、映画の「チラシ」であり、世間はまだ『えんとつ町のプペル』の主人公を見ていません。「チラシ」というと安く聞こえてしまうかもしれませんが、制作に3年半を費やした「チラシ」です。命を削っていないハズがありません。当時は、絵本『えんとつ町のプペル』の読者の方から「映画みたい」「映画化したらいいのに」という感想をよくいただいたのですが、それもそのハズ、もともと「映画用の作品」だったのです。
クヨクヨしている
いつだったか、「作品を作り続ける為にはどうすればいいのだろう?」と考えたことがありました。やっぱり僕は作家でありたいので。たくさんたくさん考えて、「作品の売り上げで次の作品を作ってしまうと、まもなく商品を作る自分になる」という結論に至りました。「作品の売り上げで、次回作を作る」というスタイルには、「作品が売れなかったら、次回作が作れない」というリスクが伴います。そのリスクを回避する為に、多くの作り手が、お客さんのニーズを調べ、売れるような作品を作り始めますが、その順番で作られたモノは「作品」ではなく「商品」です。僕は商売人ではないので、「商品」には興味がありません。
この偏愛を貫き通す為には(世間のニーズなどを無視して純粋に作品を作り続ける為には)、作品以外の売り上げで作品を作れる(食っていける)状態を用意しておく必要があり、今日も、あれやこれやと手を打っています。
この過程を見て、多くの人は「ビジネスマンだ」と言います。時々、同業者からも「商売が上手いよね」と言われます。少し嫌な匂いが混じった言葉です。
心の底ではいつも思っています。フザけるな。僕が一体いつ商売に走ったんだ?ずっとずっと、自分のやりたいことしかやっていない。世間のニーズに合わせて「商品」を作り続けてるのは、お前らの方じゃないか。お前らが、世間を敵に回してでも生み出した「作品」を一つでもいいから今ここで僕に見せてみろ。
…ときどき、こんな感情が湧き上がってきますが、「いやいや、僕が先制攻撃をしてしまっているんだ」と気持ちを収めています。ごめんなさい。「ああ、(こんなことを思っちゃ)ダメだダメだ」と基本的には、ずっとこの繰り返し。思うようにいきません。意外とクヨクヨしています(笑)。
最後に、映画『えんとつ町のプペル』の主人公である「ブルーノ」の言葉を綴っておきます。この台詞は、自分に言い聞かせるように書いたような気がします。
「他の誰も見ていなくてもいい。黒い煙のその先に、お前が光を見たのなら、行動しろ。思い知れ。そして、常識に屈するな。お前がその目で見たものが真実だ。あの日、あの時、あの光を見た自分を信じろ。信じ抜くんだ。たとえひとりになっても」
(第5回は9月21日[月]更新予定)
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◼︎『映画 えんとつ町のプぺル』特報【12月25日公開】
PROFILE●1980年、兵庫県生まれ。芸人・絵本作家。1999年、梶原雄太と「キングコング」を結成。2001年に深夜番組『はねるのトびら』のレギュラー出演決定と同時に東京進出を果たす。同番組がゴールデン枠に移行した2005年に「テレビ番組出演をメインにしたタレント活動」に疑問を持ち、「自分の生きる場所」を模索。2009年に『Dr.インクの星空キネマ』で絵本デビューを果たす。2016年、完全分業制による第4作絵本『えんとつ町のプペル』を刊行し、累計発行部数45万部を超えるベストセラーに。2020年12月公開予定の『映画 えんとつ町のプペル』では脚本・制作総指揮を務める。クラウドファンディングでの合計調達額は3億8000万円を突破。現在、有料会員制コミュニティー(オンラインサロン)『西野亮廣エンタメ研究所』を主宰。会員数は7万人を突破し、国内最大となっている。芸能活動の枠を越え、さまざまなビジネス、表現活動を展開中。
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