「エール」踏み込んだ戦場描写で悲惨さ伝える “朝ドラと戦争”の切り離せない歴史とは
“死の瞬間”も…踏み込んだ戦場描写
2020年、戦後75年という区切りの年に、近年、控えめになっていた戦争描写をこれまでよりもさらに一歩踏み込んでみる試みとなった「エール」。何が鮮烈だったかといえば、戦場で銃撃戦が繰り広げられ、頭を射抜かれて人が死ぬ瞬間を描いていることだ。血溜まりや目をあけたままの死体など、かなりショッキングなところまで描いていた。
「ゲゲゲの女房」(2010年度前期)でも、主人公(松下奈緒)の夫で漫画家の茂(向井理)が回想として、モデルである水木しげるの漫画の絵と実写をまぜながら南方の厳しい戦況を描いていたこともあるが、「エール」はそれ以上の戦場描写であった。
また、戦場から帰国したあとの裕一の虚無的な表情も、明るくさわやかなという朝ドラのイメージからは大きく離れたものだった。裕一の妻・音(二階堂ふみ)の実家・豊橋の実家も空襲で焼けてしまう。音の妹・梅(森七菜)や職人・岩城(吉原光夫)が負傷する。夢も希望もないものか……と思いきや、母・光子(薬師丸ひろ子)が賛美歌「うるわしの白百合」を歌うことで瓦礫の中からいつかきっと花が咲くという希望を見せた。
その後、闇市にたむろう戦災孤児たちの物語(「鐘の鳴る丘」)を書くぞと、劇作家・池田二郎(北村有起哉)が現れる。のちに彼が脚本、裕一が音楽で、名作ラジオドラマや演劇を作っていく人物だ。
戦災孤児といえば「なつぞら」につながるし、朝ドラで戦災孤児といえば。名作のひとつ「鳩子の海」(1974年度前期)である。記憶を失った戦災孤児・鳩子(斉藤こず恵)が主人公。ぎゅうぎゅう詰めの汽車から線路に転がり落ちる人、機銃掃射から逃げる主人公などこの頃はハードな描写がされている。
朝ドラの歴史は日本人の戦争の記憶と切り離せないものである。(文=木俣冬)