大河ドラマ「真田丸」(NHK総合)9月4日放送では、真田家が敵味方に分かれる“犬伏の別れ”が描かれた。関ヶ原を前に、真田家一人一人の運命も大きく動き始めているが、9月11日(日)放送では稲(吉田羊)に見せ場が訪れる。
歴史上のエピソードとしてもよく知られているように、犬伏の別れの直後、昌幸(草刈正雄)と信繁(堺雅人)は、信幸(大泉洋)の城・沼田城にやって来る。しかし、城を守る稲は、敵味方に分かれた以上入れることはできないと開門を拒むのだ。
そんな稲を演じる吉田羊を直撃し、稲のキャラクターや真田家の面々とのエピソードを聞いた。
――まずは、今回のオファー受けた時のご感想を教えてください。
大河ドラマは今回で3回目なのですが、これだけ長く役の人生を生きるのは初めてです。しかも、三谷幸喜さんから直々にお話をいただいて、役の説明も受けました。三谷さんとは以前もお仕事をご一緒させていただいていたので、当て書きも含めて、今回も楽しみでした。
――三谷作品にはどんな印象をお持ちですか?
三谷さんは、役者のことをすごく愛してくださっていると感じます。ただ、三谷さんの台本は、実はすごく怖いんです。三谷さんの頭の中で役のイメージが完全に出来上がっているので、書かれている通りに演じれば間違いなく面白いのですが、俳優としてはその通りにやってもつまらない。想像力、演技力が鍛えられる脚本を書かれる作家さんだなと感じます。
――今回、三谷さんから稲の演じ方についてリクエストはありましたか?
リクエストはなくて、むしろ、「これまでの小松姫に関する読み物や映像作品などは見なくていいです」と言われました。「今回、自分が作り出す世界は今までのものとは全く違うものになりますし、羊さんがやればそれが小松姫になります」ということだったので、これまで稲を演じられた人を意識するようなこともありませんでした。
――台本を読んでみて、今回の稲をどんなキャラクターとして捉えましたか?
まず思ったのは「三谷さんは、この役を『吉田羊だな』と思っていただいたのか」ということですね。小松姫が本来持っている芯の強さや熱量みたいなものを、「吉田なら演じてくれる」と思ってくれたのかなと思うとうれしかったです。
最初はクールで冷淡な印象も受けるのですが、次第に真田家の家族愛に染まっていくことでイメージが変わっていくので、演じがいがあると感じました。稲は、お父様に溺愛された方なのできちんと愛を知っていると思います。だからこそ、信幸や真田家のことも愛して守り抜くことができたのだと思って演じています。
――夫の信幸を演じる大泉洋さんとの共演はいかがでしたか?
同じ舞台経験者というのもあって、波長が合いますね。お芝居でも前室での雑談でもそうですが、打てば響くというか。こちらが、「そうツッコんでほしかった!」というツッコミを確実に返してくれるのはとても気持ちがいいです。
お芝居では、結婚する前の顔合わせで、お互いにお辞儀して、同時に顔を上げるというシーンがあったのですが、大泉さんとは相談したわけでもないのに、顔を上げるタイミングがぴたっと合って、「この人となら夫婦になれるな」と思いました。しかも、顔を上げた大泉さんの顔がハンサムに見えてしまって(笑)。実際にこんなふうに顔合わせがあったか分かりませんが、稲も目が合った瞬間に「この人すてき」と思ったのかもしれないなと思いました。
――結婚後、なかなか信幸に心を許さなかった稲ですが、信幸がおこうの元に行ったことを知り、信幸に抱き付いて迫るシーンもありました。何が稲を突き動かしたと想像されましたか?
台本を読んで「こんなきっかけで心を許すのか!」と驚いたんです。正直なところ、もっとドラマチックに信幸さんと心を通わせると思っていたので、抱き付いて押し倒して…という形で結ばれていくとは思ってもみなかったですが、「意外と、こういうものかもしれないな」とも思いました。
稲も女性ですから、夫の元妻がすぐ近くにいて、しかも夫はその人の元に通い続けているというのは、プライドが傷つけられます。でも、自分のことが好きだと思っていた人が実は別の女性のことが好きだったと分かると、気になり始めますよね。それを、いつの間にか好意と勘違いして、仲むつまじい夫婦になる。そんなところが人間らしいなと思います。
政治的な要因は置いておいて、この時代を生きた人たちも血の通った人間で愛情によって子をなしていったということが、三谷さんが真田丸で描きたかったことなのかなと想像しています。
――以前のインタビューで、「信幸を受け入れてからの(自分の)芝居が楽しみ」とおっしゃっていましたが、変化はありましたか?
信幸に迫るシーンで、今までのように信幸を突っぱねたいのにそうできない、気持ちのさらに奥底から湧き上がる女心を表現したときに、すごく楽になったんです。彼に抱き付いたときに、「ずっとこうしたかったんだわ、私」と思いました。だから、抱き付く前と後では信幸を見る目が違いますし、楽に演じられています。
――今回、大泉さんはとても真面目なキャラクターを演じていますが、どのようにご覧になっていますか?
ギャップ萌えと言いますか、普段ふざけている人が真面目な顔を見せると、女性としてはキュンとしますね(笑)。
でも、一生懸命コミカルな部分を押さえているようにも感じます。本当はもっと畳み掛けて言いたいところも、飲みこんで台本通りにやっている部分もあるのではないでしょうか。ただ、その“飲みこむこと”こそが、信幸のキャラクターの演じ方なのかなとも思います。
大泉さんといえば、地震の直後に稲を抱き締めて、「大丈夫か、ちょっと待っていろ」と言っておこうの所に行くシーンがあったのですが、リハーサルで、大泉さんが間違えて私のことを「おこう!」と呼んだことがあったんです。激怒しました(笑)。間違えたのはきっと、信幸さんがこれまでおこうさんの名前ばかりを呼んできたということだろうなと思うと、普通に悔しくて…大泉さんは土下座しながら「すみません、すごく素直に出ちゃいました!」とおっしゃっていたのですが、それがまた腹が立つという(笑)。
――主演の堺雅人さんの印象はいかがでしたか?
実は、一緒のシーンはすごく少ないので、ほとんど会えないんです。だから、ちょっと寂しくもあり…オンエアで信繁さんという人を確認しています。
でも、一緒になると、いつも話し掛けてくれる優しい方です。実は、私は、大河ドラマ「篤姫」(’08年、NHK総合ほか)で堺さんが演じられた徳川家定公が大好きで、一時期、携帯の待ち受けにしていたくらいなんです。だから、共演はすごくうれしかったです。
――真田家以外の共演者の方でいうと、藤岡弘、さん演じる本多忠勝との親子のシーンが印象深かったですが、演じていかがでしたか?
藤岡さんは、いつも私のことを気に掛けてくださって、ずっと私の父でいてくださっているんだなと思うとうれしいです。安心感がありますね。それに真面目な方で、もちろん大先輩ですがかわいらしさも感じます。
でも、一番印象的だったのは、藤岡さんが孫を抱っこするシーンです。台本では、「忠勝の顔を見た瞬間、(子供が)火がついたように泣き出す」と書いてあったのですが、「まさか、そう、うまくはいかないよね」と思っていたら、本当に藤岡さん見た瞬間に子供がぶわーっと泣き出して(笑) 。持ってらっしゃる方だな、とあらためて思いました。
――犬伏の別れを経て、沼田城で昌幸・信繁を追い返すという有名なシーンが迫っていますが、どのように演じますか?
稲が心を開いてから、信幸さんに限らず皆さんが本当の家族のようで、その一員として受け入れてもらっています。特に、昌幸には稲も一目置くところがあると思います。
だからこそ、追い返すシーンも単純に追い返したというだけでなく、旦那の不在時に彼らを入れてしまうと城を乗っ取られてしまうという危険があるので、身内だけど信じるわけにはいかない、という苦しみがあったと思います。そういった意識を持ちながら、お二人の佇まいやせりふのトーンに目を凝らし耳を澄まして、演じていけたらなと思います。
三谷さんは、戦に向かうこれまでの間に、真田家の人々を非常に愛情深く描いていらっしゃっていて、だからこそ身内で敵味方に分かれるのは本当に切ないシーンになると思います。でも、切ないからといってセンチメンタルに生きられる時代でもなくて、だから稲も、思いに流されることなく強く生きていったのではないかと想像しています。
毎週日曜夜8:00-8:45ほか
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