ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第109回ザテレビジョンドラマアカデミー賞助演男優賞 受賞インタビュー

(C)TBS

賀来賢人

「医療現場に失礼のないものにしたい」という思いが強かった

「今日から俺は!!」(2018年日本テレビ系)で主演男優賞受賞。今回は助演男優賞を受賞されました。感想を教えてください。

ありがたいです。「TOKYO MER―」は現場の熱量がすごく高いドラマでした。スタッフとキャストが一丸となって頑張った結果がこうして評価されるのはうれしいです。自分の演じた音羽というキャラクターも、脚本家の黒岩勉さんやスタッフさんが頑張って作り上げたものなので、感謝したいです。
音羽尚は厚生労働省の官僚であり、医師免許を持つ医系技官。MERのチーフ・喜多見幸太(鈴木亮平)と共に働きながら、厚生労働大臣からはMERを潰せという指令を受けているという複雑な役どころでした。投票した読者や記者からは「目の演技が印象的だった」という声が寄せられました。

マスクを着けての芝居が多かったので、そう見えたのかもしれないです。僕としては特に目を意識してはいませんでした。ただ、どのシーンでも、あまり感情を表に出さないようにし、音羽の葛藤を最小限で表現できるやり方を模索していました。だから、なるべく芝居を削ぎ落として、ただ音羽という人間でいようとしていました。


危険な現場の中に突入して救命医療を行う喜多見とそのやり方を疑問視する音羽。前半は対決するものの、後半、二人が和解するというのは、最初から知っていましたか。

なんとなく話の流れは知っていました。最初に、プロデューサーさんや鈴木亮平くんと「喜多見と音羽、どちらも正論にしたいよね」と話し合いました。どちらが良い悪いではなく、それぞれの正義があって理性的に話し合う様子を見せられたらと。音羽は喜多見によって今まで守ってきた価値観を覆され、自分の中に眠っていた「命を助けたい」という思いがよみがえっていく。それが第1話から段階的に進んでいって、第5話、病院のエレベーターに閉じ込められるところで音羽の本当の気持ちが出るというのは逆算して演じていました。


第5話、病院のエレベーターに閉じ込められた音羽がエレベーター内で産気づいた妊婦の緊急帝王切開手術を行うシーンは、話題になりました。

もし、自分の家族にそんなことが起きたらと思うとぞっとしますが、出産の処置を緊急でやらなきゃいけない状況というのはあると思うので、そこに音羽が居合わせてしまったということですよね。あのシーンは狭い場所で撮影し、ガスも充満している中、みんなで集中して長い時間をかけました。だから、帝王切開で赤ちゃんが生まれたカットは、本当に「俺が取り上げた!」という感動がありました。赤ちゃんの人形を特注して実際におなかから取り出すようなお芝居をしたので、本当に自分がやったような…。芝居なのかドキュメントなのか分からなくなるような感覚で、そういう中、緊迫感と集中力が維持できたので、僕としても新しい表現の扉が開かれた気がしました。


その場面は、音羽が将来出世するために接近していた大物政治家の与党幹事長もいて、官僚として政治家の言いなりになるのか一般市民の命を優先するのかという選択をするシーンでもありました。

音羽も板挟みになって辛い立場ですよね。世の中にあの幹事長ほど悪玉はいないと信じたいですが。音羽が幹事長に媚(こび)を売っていたのも、過去に母親を亡くしたことで、将来は自分の手で医療改革をしたいという気持ちがあったから。でも、とにかく目の前の人を救いたいという気持ちが出てくる。それはやはり喜多見という存在があったから、音羽もあの段階で出世を諦められたんだろうなと思います。


医療ドラマということで演じる苦労はありましたか?

医療用語は難しくて最初は大変でしたけれど、口が慣れてどんどん言えるようになってくるんです。それより手術のシーンを最初から最後まで手元の場面まで自分たちで演じるというのは、今までの医療ドラマでもあまりなかったと思うのですが、それにあえて挑戦したのは亮平くんが率先して「自分たちでやろうよ」と言ってくれたからです。準備期間を作ってみんなで練習を重ね、最後の方では手術の動画を1回見たら、みんなですぐ再現できるぐらいの状態になっていました。練習は大変でしたが、自分たちにとってもすごくいいことだし、映像のリアリティーや緊迫感が増すので、やりがいがありました。


元々賀来さんは、外科手術のような細かい作業が得意なのですか?

いえ、めちゃめちゃ苦手です(笑)。だから、実は結構意味分かんないところを縫ったりしちゃって。とにかく、縫うのが難しい。本当に細かい作業で、(小道具の人体の)内臓とかをかき分けながら縫わなきゃいけない。針を自分の指に刺してしまうのも日常茶飯事という感じで、NGも出しました。亮平くんも刺しまくっていたけれど、僕よりずっと器用だし、菜々緒さんや中条あやみちゃんもうまくて、そんなみんなでの共同作業を乱しちゃいけないと思うとプレッシャーでした。でも、手術シーンはマスクで顔が半分隠れるから、内心焦っていたときもポーカーフェイスに見えたかな(笑)。


終盤、喜多見の妹、涼香(佐藤栞里)が亡くなるシーンでも音羽の沈痛な表情が印象的でした。

あの場面はリハーサルのときからみんな泣いていました。涼香はエレベーターのシーンから音羽と接点があったし、他のキャラクターともいい雰囲気だったので…。何より演じる佐藤栞里ちゃんの存在感がみんなを癒やしてくれていたので、芝居とはいえ、本当にみんな喪失感があって、「早く終わってくれ」と思っていました。あの場面で音羽の気持ちがまた新たになってラストにつながるところでもあります。


最終話は希望のある終わり方になりました。続編を望む声も多いですが、また音羽を演じたいですか。

あの後、MERがどうなったかは気になりますし、音羽はMERを管理する立場になりましたから、喜多見のチームとの関係性はどうなったのか気になります。とにかくいいチームだったし、キャストはみんないつでも手術はできるので。


助演女優賞は、看護師の蔵前を演じた菜々緒さんが受賞しました。新米ドクターの弦巻比奈を演じた中条あやみさんは審査員票1位でした。

菜々緒さんはとにかくすごかったですよ。手術シーンでメスとかペアンを出すタイミングが完璧。おそらく完璧主義者なんでしょうね。今回、女子たちが仲良しで撮影の合間は和気あいあいとしているのに、撮影が始まったらぐっと集中してくれて、頼りになりました。中条さんも、すごく頑張り屋さん。亮平くんと張り合えるぐらい医療の知識を勉強してきていて、最初は研修医だったけど最後は頼りになる比奈そのものでした。実は、医師役の中では僕が一番勉強してなかったかも(笑)。


大掛かりで大変な撮影だったと思いますが、終わった後はどうでしたか。

クランクアップした後もしばらく疲れが抜けなかったです。それぐらい現場が濃かった。何回か、手術をする夢も見ました。道端で誰かが倒れていて、僕が手術して助けなきゃいけないのだけれど、いざやってみたら何もできない!という夢…。重症ですね。


2年前に主演男優賞を受賞した「今日から俺は!!」など、コミカルなイメージもありますが、シリアスな役どころだった「TOKYO MER―」は賀来さんのキャリアにとってどんな作品になりましたか。

以前から「いつか医療ドラマをやらなきゃいけない」とは思っていて、その最上級のすごい医療ものをやらせてもらいました。ここまで医療と向き合った作品はまずないでしょうし、それを経験できたのは、大きなことでした。そして、スタッフとキャストがみんなタフで、もはや鉄人なんですよ。そんな頼もしい人たちと仕事ができたことに感謝します。


医療もの、しかもコロナ禍の最中に放送されたということで思いも強かったでしょうか。

このドラマは医療の最前線で働いている人を描くものだったので、そこは真っすぐに伝えていかなきゃいけないねという話をしていました。そして、「医療現場に失礼のないものにしたい」「中途半端な思いじゃやれない」という気持ちが、この時期だからこそ強くなりました。演技合戦を見せるドラマじゃなくて、ドキュメントのように僕たちが疑似体験をしている様子が視聴者の皆さんに伝わればと…。放送が終わった今でも「『TOKYO MER―』を見ていたよ」と言われますし、いろんな人に褒めてもらえたのは、きっとそういう現実感があったからだと思います。

(取材・文=小田慶子)
TOKYO MER〜走る緊急救命室〜

TOKYO MER〜走る緊急救命室〜

救命救急チーム“TOKYO MER”を舞台に繰り広げられる医療ドラマ。チームのリーダーでスーパー救命救急医・喜多見(鈴木亮平)らが、事故、災害、事件現場に駆け付け奮闘する姿を描く。また、チームメンバーの救命救急医・音羽を賀来賢人が演じる。脚本はドラマ「グランメゾン東京」(2019年、TBS系)などを手掛けた黒岩勉が担当する。

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