ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第109回ザテレビジョンドラマアカデミー賞監督賞 受賞インタビュー

(C)TBS

松木彩、平野俊一、大内舞子、泉正英

みんなの力を結集するとこれだけのものになるということを改めて感じました(松木彩監督)

監督賞を受賞された感想からお聞かせください。

ありがとうございます。この賞に関しましては、チームにいただいた賞だと思っております。脚本の黒岩勉さん、俳優部、美術部、技術部、各セクションの皆さんがどうしたら一番良いものをお届けできるかを寝る間を惜しんで考えてくださいました。
この作品を演出する際に大切にされたことは?

今作はコロナ禍の夏休みに放送されることが分かっていたので、大人だけでなく、子供たちもワクワクできるものを目指したいなと思っていました。ただ、医療従事者の方にエールを届ける作品なのに、エンタメ感が強すぎるとバランスを崩してしまうのではないかという不安もありました。しかし、鈴木亮平さんを始めとするキャストの皆さまのお芝居には圧倒的に医療従事者としてのリアリティーがあったので、大丈夫だなと思って突き進みました。


クランクインの1カ月前から指導を行われたという医療シーンについてお聞かせください。

最初の練習はトリアージ(災害時に傷病者が同時に発生した際、緊急度や重症度に応じて治療優先順位を決め、色タグを付けていく作業)の基本から始まりました。第1、2話の撮影の頃は、どの患者さんにどう声を掛けてどう処置するか、比較的細かく台本を作っていたのですが、私が最終話で久しぶりにトリアージのシーンを撮影した際、皆さんそこに傷病者役の方さえいれば、台本がなくてもどんどん自分で判断されて、流れるようにできるようになっていて、衝撃を受けました。オペや現場の処置も、準備時間も短い中、皆さんが一緒にクオリティーを追求してくださったので、本当に頭が下がる思いでした。


手術シーンは一連の作業を通しで撮影したそうですが、それはなぜですか?

部分を抜き出してそこだけ撮るのではなく、前後の流れの中で生まれる臨場感をお見せしたかったのと、MERメンバーの連係プレーを見せたかったからです。特に「TOKYO MER―」は事故現場の手術など、本来しないような体勢でオペすることが多かったので、そのさまをしっかり描きたかったのも大きいです。処置やオペのシーンはバトル・アクションシーンのようにしたかったので、とにかく一連の動きに臨場感を持たせて撮りたかったのです。結構無茶な要求をしていましたが、皆さん応えてくださいました。


監督の目からご覧になって、彼らのチームワークはいかがでしたか?

すさまじかったです。テクニックやお芝居に加えて、現場の雰囲気作りも素晴らしかった。どうしても時間の掛かってしまう撮影なので、おそらく“超”大変だったと思うのですが、「よしやろう!」と毎回、誰かが引っ張ってくれたので、こちらも気合が入り、闘魂を注入しながら撮影させていただきました。


ロケ現場やERカーなどの美術やセットも素晴らしかったです。

本当にすごかったですね。一番早く制作を始めたのはERカーでしたが、実は最初の候補車を見たとき、「小さいな」と思いました。こんなことを言っていいのかと緊張しつつ、決死の覚悟で「もっと大きくしてもいいですか?」と言ったら、皆さん、「だよね?」と。それが「TOKYO MER―」の第一歩だったので、すてきなチームに巡り会えたなと思いました。あの大きな亮平さんが歩き回っても頭をぶつけない大きなものにしたいと伝えたら、渡辺良介プロデューサーが嫌な顔一つせずに「もう一人の主役だからな」と言ってくださったことがすごくうれしかったです。


ロケ現場の美術もすごいなと思いました。

美術もやりすぎだと仰る方は一人もおらず、むしろ私が「いいのかな?」とヒヨってしまうぐらいでした(笑)。第1話で「バスを横転させてボコボコにしたいんですけど」と言ったときも、美術さんが「そうだよねー」と(笑)。「もっとやろう」と言ってくれるスタッフさんばかりで、本当に助けられました。「第1、2話だけ豪華だねとは言われたくないでしょ?」と準備時間もない中で最終回まですごいものを作ってくださいました。実は最終回の地下の崩落シーンでは、それまで使用してきたがれきなどが集結していて、見た瞬間、胸が熱くなりました。


キャスト陣について教えてください。喜多見先生役の鈴木さんに演出される際に意識したことは?

喜多見幸太として生きることに真正面から挑んでくださっていたので、キャラクターそのものについて、あれこれ言うことは一つもありませんでした。意外と喜多見は個人的な感情をあまり出していかないキャラクターなので、気持ちの出し加減のようなところは話し合いながら撮影していましたが、とにかく常に圧倒的に「喜多見」でした。いつもせりふとアドリブの境目が分からなくなるんです。本当にすごいなと思いました。


音羽役の賀来賢人さんはいかがでしたか?

音羽は一番激情を秘めている人で、そこを賀来さんが繊細に演じてくださいました。一番印象的だったのは最終話で、音羽は「私はMERの医師ですから」というせりふを境に、声も目つきも雰囲気もガラっと変わっているんです。ここに至るまで10話をかけて積み上げてきてくれたものを改めて感じて、鳥肌ものでした。それから、音羽と喜多見のシーンでは私が逆に男の世界を教えられました。例えば、第5話で音羽が一人、縫合の練習をしているところに喜多見が来たとき、目を合わせずに会話をしたのですが、私は少し目線を合わせる芝居を考えていたら、お二人から「松木さん、それは野暮ですよ」と言われてしまいました(笑)。試しに目を合わせてもらったら、全然違って、目を合わせない方が断然良かった。あのシーンは、二人が向き合うバディではないことがクリアになった瞬間だったと思います。


夏梅役の菜々緒さんは、シングルマザーの面も高評価でした。

第3話の幼稚園のお迎えシーンが大好きで。仕事ではボロボロになりながら闘っているけど、そんなことは微塵も見せずにお迎えに行く。そういう姿を菜々緒さんがとても粋にしなやかに演じてくださいました。そして、看護師としての技術もすごかった。そんなに難しい手術じゃなかったら、(医師に器材を渡す)器械出しができるんじゃないか?と指導の先生が言っていたくらいでした。


その中で育っていく比奈先生役の中条あやみさんはいかがでしたか?

比奈が高輪(仲里依紗)と喜多見と音羽という理想の上司に見守られて、不器用ながらも一人前の医師へと歩んで行けたのは、中条さんのひたむきさがあったからだと思います。オペでの所作一つ一つにも懸命に取り組まれていて、その感じが比奈と合致していました。


喜多見の妹役で、連ドラ初レギュラー出演した佐藤栞里さんは?

本当に感受性が豊かな方で、涼香の前後関係についての説明を聞いているだけで涙を流すぐらい、スーッと感情移入されていくんです。そうしながら、涼香を佐藤さんでなければ考えられないぐらいのすてきなキャラクターに育ててくださいました。


終盤の衝撃は、佐藤さん演じる涼香だからこそ、見る側にも伝わったのではないかと思います。

佐藤さん演じる涼香だったからこそ喜多見たちの受けた衝撃も大きかったと思います。そして、そこから立ち上がらねばならない彼らの強さや、最後のオペで椿(城田優)をも助けてしまう、命と向き合い続ける医療従事者の方々のすさまじさを表現することもできたのかなと思います。


振り返っているとまた見たくなってきましたが、松木さんは続きを撮りたくなりませんか?

本当に素晴らしいチームなので、いつかまたご一緒できたらうれしいですが、とにかく大変でしたので、とりあえず一回休んでいただきたいです(笑)。


最後に松木さんにとって、本作はどんな作品になりましたか?

一生忘れることのできない作品になりました。劇中でも描かれていたことですが、みんなの力を結集するとこれだけのものになるということを改めて感じさせてもらえました。それから、このコロナ禍でお医者さまやレスキュー隊の方など、本当にたくさんの方にご協力をいただきました。そういった方たちを見ていると、この「TOKYO MER―」で描いていることは決して大げさではないと感じました。「TOKYO MER―」のようなヒーローは実際にいるので、救急車や消防車のサイレン音を聞いたときは、今、喜多見たちのようなヒーローが救出に向かっているんだなと思っていただけたら、いいなと思います。

(取材・文=及川静)
TOKYO MER〜走る緊急救命室〜

TOKYO MER〜走る緊急救命室〜

救命救急チーム“TOKYO MER”を舞台に繰り広げられる医療ドラマ。チームのリーダーでスーパー救命救急医・喜多見(鈴木亮平)らが、事故、災害、事件現場に駆け付け奮闘する姿を描く。また、チームメンバーの救命救急医・音羽を賀来賢人が演じる。脚本はドラマ「グランメゾン東京」(2019年、TBS系)などを手掛けた黒岩勉が担当する。

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