ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第113回ザテレビジョンドラマアカデミー賞主演男優賞 受賞インタビュー

中村倫也

羽男は芝居をしたというより“ほぼ中村”。続編は…ハワイ編で会いましょう!(笑)

「石子と羽男―そんなコトで訴えます?―」で主演男優賞を獲得した感想を聞かせてください。

大事な賞をいただきまして、ありがとうございます。これで親孝行ができました。5部門受賞ということで、みんなで賞をもらえたということもうれしいですね。

羽男の演技について、投票した人たちからは「天才だけれど、想定外のことに対応できないという複雑なキャラクターを自然にうまく演じていた」という意見がありました。

演じたというか、羽男は、ほぼ中村ですけどね(笑)。「中村でいいや」と思っていました。ただ、自分は羽男のようなフォトグラフィックメモリーのような能力もなければ、天才と呼ばれたこともない人間で、逆に想定外の事態にはめちゃくちゃ強いタイプなので、演じたと言えばそうですが。あとは、法律家ファミリーに育ち、父親との関係でコンプレックスを抱えていることは意識しました。それでいろんなことがあり、自分を大きく見せようと虚勢を張るところから始まっているので。


最終話で羽男が「これからも戦ってまいります、マチベンとして」という場面は感動的でしたが、中村さんにとっても納得のいく結末でしたか?

もちろん。羽男は石子や綿郎(さだまさし)と働くうちに、自分の素朴なところに気づき、お父さんにもそれを伝えていましたよね。ちゃんと受け取ってもらえたのかは分からないけど、そういう言葉が自然と出るようになった。けれど、これから先もきっとすったもんだがあるはず。いろんな考え方と行動がずっと一致して生きていける人なんていない。羽男もここからもっと深みを増していくと思うんですよね。だから、最終話でも羽男の完成形としては演じませんでした。


週刊ザテレビジョンの以前のインタビューによると、「石子と羽男―」は中村さんにとって一つの到達点になったということでしたね。

もう何年、役者をやってきたか分からないんですけど、これまでの経験や感覚みたいなものをある程度、動員してやれたなという手応えのある作品でした。同時に今後の試金石になった気もしますね。


主演女優賞を受賞した有村架純さん、助演男優賞を受賞した赤楚衛二さんともに、中村さんが作品全体を見て、セリフを加えるなど的確な提案をしていたとおっしゃっていました。

昔から台本が届くと、自分の役がどうこうというより作品の構造を読み解くタイプで、こうしたら面白いんじゃないかなと考えるんですね。ただ、それは脚本家さん、監督さんの領域ではあるので、僕が踏み込むと、話がでかくなってしまう。だから、考えていることがあっても、声高に言うことはなかったんです。まず台本通りに乗っかってから、自分で考えたように動くとか…。

でも、このドラマではわりと早い段階、準備稿ぐらいで新井順子プロデューサーや塚原あゆ子監督が僕たちのアイデアを聞いてくれたので、自然とそういうことを話すようになりました。とか言いながら、実は全部、塩崎役のおいでやす小田さんが教えてくれたんですよ。「こうしたらええで、中村くん」って(笑)。


なるほど。小田さんが影のプロデューサーということで…(笑)。最終話のラストシーンも「これまでの石子と羽男のやりとりを思い出せるやりとりを入れては」と中村さんが提案したとか。

一話完結ものなので、毎回、新しいゲストが来て事件が起こって、ホストである我々が受けて動いてというのを繰り返してきたドラマではあるけれど、通して見てくれる人は、石子と羽男たちの関係性の変化や成長を見るのが楽しみなはず。だから、最終話では大きな事件の解決に追われていたけれど、ラストシーンでは石子と羽男のやりとりに、2人の関係を振り返るセリフを入れてはと…。

そもそも石子と羽男の「初めまして」から始まった物語だったので、そのときと同じような景色だけど2人の関係は変化しているという、10話分の時間を経た意味を見せたらいいんじゃないかなと思いました。


台本を膨らませたということで言うと、コミカルな場面も多く、第6話で「(防犯カメラの映像を見て推理を)冗舌に話す」と台本にあるところでは、「古畑任三郎」のまねをしていましたね。

その段階では羽男がふざけて言うことを石子が冷静にさらっと受け止める関係になっていて、相手を無視できるぐらい気心が知れているということだから、「じゃあ、ご機嫌にボケようかな」ぐらいのノリで、現場で思いついたのが「古畑」だったというだけ。特に物まねしようと事前に練習したわけではないです。ただ、あの場面のように台本で「遊べるな」というところにはアンテナを張るようにしていました。あと、大庭(赤楚)が絡むシーンは、とにかく突っついていこうと意識して(笑)。


6年前、「お義父さんと呼ばせて」(2016年フジテレビ系)では、遠藤憲一さんと渡部篤郎さんがアドリブもやり放題で楽しそうにしているので「なんであんなに自由に演じられるの?」と悔しそうにコメントしていましたが、今回は中村さんがまさにあのときの先輩俳優の立ち位置で自由に演じていたのでは?

それもタイミングなんでしょうね。あの頃は「こう演じなければ」と考えることが多かった。そこから「お義父さんー」のお二人だけじゃなく、本当にいろんな人の背中を見させてもらってきたので、「石子と羽男―」はそれもひっくるめて今までの経験値や作ってきた判断基準などが反映できた作品だったんじゃないかな。現場での役割も変わって、毎回のゲストを迎える側でもあったので、柔らかく対応できた方がいいなと思いながらやっていましたね。


石子役の有村架純さんとの共演はいかがでしたか?

満を持してというか、役者がいろんな経験をしていく中でこのタイミングで架純ちゃんと共演できたのは、お互いにすごく良かったんじゃないかなって思いますね。架純ちゃんも最初からすごく心を開こうとしてくれたので、風通しが良かったというか、良い関係を築けたのも早かったし、2人とも結構気を遣う性格なので、そこの連鎖反応も早かったのかな。4カ月間、一緒に撮影をして、クランクアップのときはもう特別な言葉はいらないというか、そんな感じになっていましたね。


監督賞を受けた塚原監督の演出はどうでしたか?

これまで出会ってこなかったタイプの映像の監督さんで、面白かったですね。「次のテークは違うことやってもいいよ」「セリフの間を空けるとかは気にしなくていい」と言ってくれました。

一つのシーンが始まる前にそれぞれの人物が何を思い、終わりではどう考えているべきかという構成があるわけで、その間に誰が誰に作用するかということもある。その流れを役者が始めた瞬間に拾いたいという、ある意味、欲が強い監督さんですよね。

もちろん、演出プランはあるんでしょうけれど、現場で役者の演技の方が面白いと思ったら、すかさず拾ってくれます。だから、細かいカット割りはせず、演劇のようにワンシーン通して撮影する方法を選ぶ。さすが巨匠だなって思いました。僕にとっても、それはすごく楽なやり方でした。


赤楚衛二さんは助演男優賞を受賞しました。

赤楚くんとは「美食探偵」(2020年日本テレビ系)にゲストで出てくれたときが初対面でした。その後、大々的に注目され、今回、再会したときはもう華やかさが違いましたね。でも、本当に大庭みたいな人で“赤楚フィルター”みたいなものがあり、セリフのやりとりがテニスのラリーのように続いているとき赤楚くんが1回入ると、違うコースに変化するんです。それが面白くて、一緒にやっていて飽きなかったですね。それに塚原監督に演技のアドバイスをもらっている様子がうらやましくて、「俺は20代のとき、こんなふうに教えてもらったことはないな」と思いました。


毎回、最初に30秒ぐらいの寸劇がありましたが、最も印象に残っている回はどれですか?

あれはもう有村架純コスプレ集でした。僕から見て第2話の小学生の格好をしてランドセル背負っているのも「すごい。なんで似合うの」って思ったし、架純ちゃん本人は第5話のおばあちゃんの格好をすごく楽しそうにやっていましたね。僕はただ用意された衣装を着てふざけるだけでした。


キャストのみなさんで「続編をやりたいね」と言っているそうですね。

うん、やりますよ。そう書いておいてください。そしたら、やるしかないので(笑)。これまでは完結したら終わりという感覚があり、続編的なものはやってこなかったけれど、このドラマに関しては「もっと面白いものができるな」と思えるチームで、そういうコンテンツだったので、初めてに近いことですが、続きやろうねと思っています。そう、石子と羽男がどうなったかは続編で描かれるんです。スペシャルドラマのハワイ編で(笑)。

(取材・文=小田慶子)
石子と羽男―そんなコトで訴えます?―

石子と羽男―そんなコトで訴えます?―

有村架純、中村倫也のW主演で、正反対のようでどこか似た者同士の二人が成長する姿を描くリーガル・エンターテインメント。有村は、司法試験に4回落ちた崖っぷち東大卒のパラリーガル・石田硝子、中村は司法試験予備試験と司法試験に1回で合格した高卒の弁護士・羽根岡佳男を演じる。脚本は西田征史が手掛ける。

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