ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第113回ザテレビジョンドラマアカデミー賞助演女優賞 受賞インタビュー

撮影=石塚雅人

松岡茉優

みんなに報告して感謝の思いを伝えたい

「初恋の悪魔」(日本テレビ系)の摘木星砂役で初めて助演女優賞を獲得した感想を教えてください。

ありがとうございます。最初に思い浮かんだのが、現場で一緒に過ごした皆さんのことです。水田伸生監督をはじめとするスタッフさんたちが、私たち俳優部がお芝居だけに集中できる環境を作ってくださり、共演者の皆さんと忌憚(きたん)のない意見を交わしながら毎日を過ごしました。だからこそ、みんなで頂いた賞です。


松岡さんのほか、坂元裕二さんが脚本賞を受賞しました。松岡さんにとって坂元さんはどんな存在ですか?

坂元さんの作品に出演させていただくのは映像では2回目でした。以前、「問題のあるレストラン」(2015年フジテレビ系)で演じた千佳ちゃんを演じさせて頂いたのは7年前だけれど、今でもずっと心にいます。同じように、星砂さんもずっと私の側にいてくれるんだろうなと思います。「初恋の悪魔」がクランクアップして、次の作品(「連続ドラマW フェンス」)に入っているのですが、難しい題材なので、「ここは苦しいな」とか「頑張らないと」と思うとき、星砂さんが肩を組んでくれているような気がするんです。坂元さんには「私の心の友達を作ってくれてありがとうございます」とお伝えしたいです。


星砂には虎女、蛇女と呼ばれる二つの人格がありましたが、最初に坂元さんや監督さんからどんな説明を受けましたか?

撮影に入る前に「だいたい、こういう感じで進んでいく予定です」ということを次屋尚プロデューサーと坂元さんが話してくださったので、それ以降は何か疑問が出たら現場で水田監督に聞くようにしました。第1話の段階では、悠日(仲野太賀)の兄(毎熊克哉)を殺したのは誰なのかということを含め、詳しい今後の流れをキャストもまだ知らない状態だったので、私も星砂さんが犯人なのかもしれない、と思いながらの撮影でした。撮影が終わる頃に聞いてみたら、他の出演者さんたちも「俺、犯人なんじゃないかな…」心がざわざわしていたようでした(笑)。

台本の解釈についても水田さんと何度もメールを交わしながら確認して、それを手帳に書き写して確認して、その中で、これからも大切にしたいと思う言葉をたくさん頂きました。台本の話をしているのだけど、私にとっては授業のようで。まるで水田さんと文通しているみたいでした。


今回、投票した人たちからは「二つの人格の演じ分けが見事。動作一つ、セリフ一つで人格が入れ替わったと分からせるのがすごい」「二重人格で自分を信じられない苦悩が伝わってきた」という感想が寄せられました。

とてもありがたいです。許されるなら「初恋の悪魔」について頂いた感想をコピーして、みんなで全部読みたいですね。この物語の中では最後まで明らかにはなっていないのですが、星砂の人格が入れ替わるということについて私が質問したとき、次屋さん、水田さんから「もともと人間は色々な自分を持っているし、立場の違う人たちも表裏一体で、ちょっとしたことで入れ替わってしまうもの。だからこそ、交代する時のお芝居は、カチっと切り替わるのではなくシームレスに演じてほしいというお話をしていただきました。

私は作品中、悠日が好きになった星砂さんを虎ちゃん、鈴之介さんが好きになった星砂さんを蛇ちゃん、と呼んでいたのですが、このお話を受けて、すごくシンプルに、虎ちゃんと蛇ちゃんがそれぞれどうしたいかなというのを考えながら過ごすことにしました。


人付き合いが苦手な刑事・鈴之介を演じた林遣都さんとの共演はいかがでしたか?

林遣都さんとは、私が18歳の時に時代劇「銀二貫」(2014年NHK総合)で共演させていただいたことがあります。そのときは最終的に夫婦になる役で、寒い中の撮影を共に乗り越えた思いがありましたが、すごく親しくなったということでもなくて。今回は撮影期間が長かったこともあり4人でたくさんお話ができました。約4カ月の撮影期間で、林さんは、作品への愛情がなんて深い方だろうと感じていました。

忘れられないのが、最終話で鈴之介(林)と蛇ちゃんが公園に行く場面。台風の予報が出てロケができないかもしれないので、設定を変えて鈴之助の家で撮るかという話が出ていたんです。でも、あの場面は2人にとって最初で最後のデートだから、みんな本心ではロケがしたいと願っていました。

他の撮影を進めながら、ロケができるかどうか、スタッフさんたちが検討を続けてくれていたのですが、台風の進路がそれたんです。生田スタジオでの撮影中に、ロケができます!という連絡が来たのですが、林さんが、前室のソファに隠れてしまうぐらい小さくなってガッツポーズしていたんです。「撮れる、撮れるよ、良かった!」って、もう顔を真っ赤にして喜んでいて、こんなに役と作品を愛し体当たりで作品と向き合っていく、林遣都さん。本当にかっこいい座長でした。


あの公園で鈴之介ともう一人の星砂が相手への思いを告白しながらも別れる場面は、切ないと評判になりました。

鈴之介が顔を覆って泣く場面で、林さんの指の隙間から涙がこぼれ落ちていました。指の隙間から涙があふれるなんて、初めて見ました。でもご本人は気づいていなくて私と水田監督がとても素敵だった、と伝えたら、「え?」と返されました(笑)。


仲野太賀さん、柄本佑さんとの共演はいかがでしたか?

仲野太賀さんとは16歳のときに映画「桐島、部活やめるってよ」(2012年)で共演して以降、何度か共演させていただいていて。この世界で仕事を得るために、自分を変えていくことも必要な場面もあったりして。私も変化したり、試したりしながら、今、本来の自分になれてきたかもな、と感じているのですが、仲野さんは仲野さんのまま、ここまでやってきて、たくさんの人に評価されていて、愛されていて、それがとてもうれしく、かっこよくて。今、この作品でご一緒出来たことが幸せでした。

柄本佑さんとは初めての共演でした。佑さんには私たちが見えていないものが見えている、と感じる場面が何度もありました。台本をいざ現場でやってみた時に、場所だったり環境だったり、流れだったりで、そのまま出来ないな、ということがあるのです。そんな時はみんなで話し合ったり、修正したりするのですが、佑さんはその小さな段差をこちらが気づかないくらい自然に、柔らかく、なだらかにしてくれました。段差なんて元々なかったかのように。

佑さんが来れずに私と林さんと太賀さんでお疲れ様会をしたことがあったのですが、「いつのまにか佑さんに助けられていた」「俺も!」と全員が経験談を語って。「どうしたらあんな俳優さんになれるんだろうねぇ」と話しました。あんなふうに穏やかで、心の大きな人になりたいです。


演技するときの違和感ということでいうと、坂元さんの演劇的な脚本をロケで撮影しているので、松岡さんたちキャストは屋外で自然に演じるのが大変だったのではと思いました。

演出は水田監督と、塚本連平監督、鈴木勇馬監督というチームだったので、御三方ともあまりカットを割らずに、まさに演劇のような緊張感で撮影されていて。みんなが集中して、その一回に挑んでいくので、自分の中で何かが出来なくて、そのカットがNGになるのは避けたい、という思いから、カメラが回る前に私は自分の足を叩いて「行くぞ行くぞ」と気合を入れていました。隣を見ると、林さんは屈伸していて(笑)。全員がその一回に思いを乗せているのだと感じる撮影でした。


改めて松岡さんにとって「初恋の悪魔」とはどんな作品になったでしょうか?

たぶん今後の人生で何度もこの作品を振り返って、みんなに会いたいな、と思うのだと思います。だからこそ、スタッフさんたちとも、キャストとも、またどこかでご縁があって、お会い出来た時、一緒にお仕事が出来た時に、準備ができている自分でありたいです。


ドラマを好きな人が次の展開を楽しみにしてSNSでの感想も盛り上がっていました。その反応は感じていましたか?

ドラマって、決まった曜日、決まった時間に放送されるから、例えば、理不尽な思いをしたり、辛いことがあったときに「でもドラマの放送があるから、それまで頑張るぞ」と思ってもらえたら、そんなドラマが出来たらな、と思っていました。今回、放送するごとに、見てくれている皆さんから感想を頂いて、「土曜の放送が楽しみでした」とか「『初恋の悪魔』があるから頑張れます」と言ってもらう機会が多くて、本当にうれしかったです。みなさんが見ていてくれて、楽しみにしてくださっていることが、作っている私たちの力になっていました。全10話、心からありがとうございました。

(取材・文=小田慶子)
初恋の悪魔

初恋の悪魔

林遣都と仲野太賀のW主演で、坂元裕二が脚本を手掛けるミステリアスコメディー。ヘマをして停職処分中の刑事・鹿浜鈴之介(林遣都)の元に、総務課・馬淵悠日(仲野太賀)ら訳ありの4人が集まる。警察署に勤めているが、捜査権はなくそれぞれ事情を抱えている。そんな4人が刑事とは違った感性と推理で難事件を解明していく。

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