ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第113回ザテレビジョンドラマアカデミー賞主演女優賞 受賞インタビュー

撮影=阿部岳人

有村架純

一日中、笑いながら撮影ができる楽しいチームでした

「石子と羽男-そんなコトで訴えます?-」で主演女優賞を獲得した感想を聞かせてください。

ありがとうございます。作品賞と監督賞、主演男優賞、助演男優賞もいただき、みんなで受賞できたのがうれしいです。2年前、新井順子プロデューサーにこのドラマの企画書を見せてもらったとき、直感的にとても面白そうだと思ったんです。ただ、もろもろの調整で一度、企画が流れそうになり、私は「ぜひやりたい」という気持ちがあったので焦りました。それがなんとか実現し、結果的に皆さんに届くものになったということが、一番うれしいですね。

「コントが始まる」(2021年日本テレビ系)では助演女優賞を受賞(第108回ザテレビジョンドラマアカデミー賞)しましたが、同作の撮影時にはもう「石子と羽男―」に出演することは決まっていたそうですね。

中村倫也さんが相手役ということもぜひやりたいと思う理由だったので、「コントが始まる」の撮影でお会いしたときに「あのドラマの企画、どうですか」と聞いてみると、倫也さんが「やらないわけがないよ。楽しみながらいい作品にできるといいね」って言ってくださって、安心しました。

既にコロナの影響があって、顔合わせや台本読みもできるかなという時期で、意思疎通ができないまま作品に入ることはちょっと怖かったんですね。だから、倫也さんと私が2人ともそういう気持ちを持っているなら、熱量高く臨めるなと思いました。それから1年後ぐらいに撮影が始まり、そこからはもう怒涛の4カ月を過ごしました。でも、こんなに生き生きと現場に立たせてもらうことは久々だというぐらい楽しかったです。


石子は東大法学部を首席で卒業したが司法試験に4回落ちているという設定で、今回の投票でも「真面目過ぎる女性の役だが、有村さんが演じたからこそ可愛らしく、チャーミングな魅力が加わった」と好評でした。

「頭の固い石子」でしたが、東大卒などのスペックにとらわれず、柔軟性を意識しました。真面目だというくくりだけではなく、生きていればいろんな感情があるはずだから、石子を演じることでそれをたくさん体験できたらいいなと…。倫也さんが現場で本当に自由に演じていたので、それにうまく乗っかりたいという思いもあり、引っ張っていただいたなと思います。第1話のカフェで立ち上がった拍子にうっかりテーブルにぶつかってしまったら、アドリブで「危ないな」と言われたりして、そういうことの連続の毎日で、朝から夜まで笑いながら過ごせましたね。


台本と放送されたものを比較すると、台本を膨らませてある部分も多く、現場で自然に生まれたやりとりもあったのかなと思いました。

そうですね。台本を読んだ時点でイメージは作っていきますが、現場で生まれるものも多々ありました。準備稿の段階で私たちキャストからもアイデアを出し、新井順子プロデューサーが意見を反映して決定稿にしてくれました。さらに、実際に演じてみて、プラスアルファで「こうしよう」というのもあったので、とにかくブラッシュアップの作業をたくさんした覚えがあります。


石子自身の問題としては、お父さん(さだまさし)との関係と、司法試験に合格せずパラリーガルのままでいいのかということがありましたね。

そうですね。父親が母親に苦労をさせ、母が病気で亡くなったという生い立ちなので、石子は「自分がしっかりしないと」と思ったんでしょうね。使命感や責任感を背負い過ぎて真面目な性格になったのではと…。また、勝手にそう思ったのですが、勉強のできる人って何事もまず自分が理解しなければ気が済まないという印象があり、序盤はその自己完結した感じを出していこうと考えました。そんな石子が羽男さんとやりとりするうちに、だんだん柔らかくなっていく。物事を共有する楽しさや分かり合える喜びを見出す様子を見せたいと思いました。


終盤、2人はお互いに相棒として認め合いますが、やはり石子にとって羽男との出会いは大きかったんですね。

めちゃくちゃ大きかったと思います。石子にとって羽男は今まで生きてきた価値観からすると、ありえない人だったけれど、その出会いが行き詰まっていた石子に良い影響を与え、ラスト近く、一緒にカツ丼食べる場面につながったのかなと思います。


羽男が石子に「これからも俺の隣にいてください」と言い、石子が「相棒弁護士として先生の横にいてみせますから」と答えるシーンですね。最終話を見るまで、石子は付き合い始めた大庭(赤楚衛二)ではなく、羽男とくっつくのかな?と予想していました。

企画当初はそういう予定でした。でも、プロット(あらすじ)を作る段階で、仕事で知り合った男女が私生活でもパートナーになるのは今までよくあったパターンだよねという話になり、恋人でもなく友達でもない、それ以上の真の相棒であるという関係性が最も尊いんじゃないかという意見でまとまったんですけど、本当にそういう話になって良かったなと思いました。


仕事のパートナーと私生活のパートナーが違うというのは感覚として分かりますか?

私もすごく仲間意識が強く、同じ作品をやった人たちとは一緒に芝居するうちに心と心で会話するみたいな関係性になる場合が多いので、めちゃくちゃ納得しました。


全話を通して、演じるのが難しかったところはありましたか?

第7話で石子の過去が明確になりましたが、正直、台本読むまで、司法試験の日に交通事故を見てしまったという過去のことは詳しく知らなかったんですね。連続ドラマの面白い点ですが、そんなふうに1話ずつ台本を読みながら理解したこともたくさんありました。

第7話はDVを受けている女子高生が題材だったので、そこまでの石子と羽男の軽やかさを崩さずにそのデリケートな問題を扱うのが難しく、石子の表情があまり陰になりすぎると暗い話になってしまうから、そのバランスについて塚原あゆ子監督とたくさん話し合いました。


そして、石子が試験会場に向かっていき、それを羽男が見守るというラストシーンは、有村さんとしては納得のいくラストでしたか?

羽男が傘を差し出すというのは台本にありましたが、倫也さんが「今までの石子と羽男のやり取りを想起させるような内容で締めくくった方がいいんじゃない?」とアイデアを出し、第1話で出会ったとき羽男が柱に隠れていたのでは?というやり取りにリンクする会話を入れることに。

倫也さんの視点って本当に鋭いんです。第9話で大庭が逮捕されたとき、石子が彼に書いた手紙も、最初は「声を上げていただかなければ、お手伝いすることができません」というセリフはなかったんですよ。でも、倫也さんの提案で入れることになり、私もそのセリフはあって良かったと思いました。そんなふうに作品にとことん向き合う倫也さんのやり方が、あのラストにもつながりました。


主演男優賞が中村倫也さん。赤楚衛二さんも助演男優賞を受賞しました。赤楚さんの印象は?

赤楚くんは真っすぐで、でも、面白い人。私と倫也さんの間に赤楚くんがいてくれて良かったなと、とても思いました。赤楚くん本人にも大庭という熱量高いキャラクターにも助けられましたね。意外だったのは、赤楚くん、虫が大の苦手らしくて、東京タワーの見える場所で石子と大庭が付き合うことになったシーンでは、私の衣装に虫がついていたので「虫、虫!」と言ってくれたけれど、取ってはくれず、「え?どこ?」と(笑)。そういうところもチャーミングで、皆さんに愛される理由なんだろうなと思いました。


改めて「石子と羽男―」は有村さんにとってどんな作品になりましたか?

新井さんたちと作った「中学聖日記」(2018年TBS系)にしても、「コントが始まる」にしても、そして、この作品でも、演じているときは、見てくださる人の心に響けばうれしいなという気持ち。ただそれだけなんですよね。だから、また一つ自分の心にも皆さんの心にも残る作品ができたことがうれしいです。

倫也さん、赤楚さん、さださん、おいでやす小田さんと共演して、本当に真剣に向き合えたと思っているし、このメンバーじゃなかったらできなかった作品だと思います。また、パラリーガルの石子を演じたことで、法律を身近に感じられましたし、何度もセリフに出てきましたが、世の中にたくさんいる「声を上げること」が苦手な人の背中を押せる作品になったのかなと思うと、参加できて良かったなと思います。本当に楽しいチームだったので「今度はスペシャル版をやりたいね」という話はしていて、もし実現したら、うれしいですね。

(取材・文=小田慶子)
石子と羽男―そんなコトで訴えます?―

石子と羽男―そんなコトで訴えます?―

有村架純、中村倫也のW主演で、正反対のようでどこか似た者同士の二人が成長する姿を描くリーガル・エンターテインメント。有村は、司法試験に4回落ちた崖っぷち東大卒のパラリーガル・石田硝子、中村は司法試験予備試験と司法試験に1回で合格した高卒の弁護士・羽根岡佳男を演じる。脚本は西田征史が手掛ける。

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