脚本賞は「MIU404」野木亜紀子氏 ラストシーンは『連続ドラマでなかったら生まれていない』<ドラマアカデミー賞・インタビュー前編>
コンビ解消は伊吹&志摩に「共依存っぽさも感じて」
――バディとして信頼を築いたはずの伊吹と志摩が、最終話ではギクシャクしコンビ解消してしまう展開が、野木さんらしくてシビアだという意見もありました。
それはドラマですから、仲良し小好しで最後までいくのかというと、ねぇ(笑)。たしかに第10話まではうまく行っていますが、その伊吹と志摩の関係に共依存っぽさも感じてしまって、それではいけないという思いもありました。本来、バディは個々が確立してから成り立つもの。刑事だけでなく、あらゆる人間関係がそうですよね。その点、前の相棒に死なれた志摩と、恩人を止められなかった伊吹は、お互いに依存していて危ういのではないか。やはりもう一度、個人に立ち返るというか、ひとりひとりが自分の足で立つための最終回にしたかったんです。
――ラジオ番組で語っていらしたように、志摩一未と伊吹藍という名前には「1未満」というニュアンスが込められているそうですが、最後には「1」になって終わったのでしょうか?
いや、それはならないんじゃないですか。だって、完成している人なんていないし、人はみな常に足りないものを抱えて生きていくんですよ。伊吹と志摩も何かが解決したわけではなく、蒲郡は犯罪者のままだし、香坂は死んだまま。彼らはその変わらない状況で足りないまま生きていくけれど、例えば相棒や仲間がいることで、助け合うことはできる。最終回のラストシーン、伊吹と志摩が機捜車のなかで、「また間違えるかもな。間違えてもここからか」「そういうこと」と会話しますが、そういった関係だと思うんですよね。
――最終回、伊吹の「刑事、辞めないよな?」という問いかけに志摩が答えなかったのも、印象に残りました。
あの時、志摩の中では結論が出ているはず。きっと志摩はこれからもときどき「辞めてえなぁ」と思いながらやっていくんですよ。人間ってそんなに簡単に割り切れないし、強いままでいられないですから。その意味では伊吹の方が、ある種の割り切りがあって、強いのかもしれないですね。
――最終回前、WEBザテレビジョンに掲載したインタビューで「日常回も考えていた」と語ってくださった部分に、読者の方から「それを見たかった!」という反応がありました。
企画段階で「全14話もあるなら、1回は日常回をやりたいな」と言ったら、「さすがに何も起こらないのはまずい」と反対されていました(笑)。そこを「何かが起こりそうで起こらないというのがいいんじゃない」と言い張って、やりたかったんですけれど、けっきょく全11話になってしまったので、それはまたいつか…。いや、機会があるかはわかりませんが(笑)。
日常回の舞台は彼らのプライベートゾーンとかではなく、あくまで仕事場の分駐所と警察署で、ずっとその中にいるだけの話です。例えば、泥棒が出たと思ったらそうじゃなくて、一日、終わってみたら平和だったねというような…。
(取材・文=小田慶子)
(後編へ続く)