柴咲コウ主演の大河ドラマ「おんな城主 直虎」(NHK総合ほか)の第9回が、3月5日(日)に放送される。この回の見どころは、なんといっても“桶狭間の戦い”。前回放送のラストでは、主家・今川の命令で出兵することになった井伊家の面々が、戦場へ向けて行軍する姿が描かれた。
その軍勢の中の一人、小野玄蕃役の井上芳雄を直撃。ミュージカル界のスターは今回が大河初出演だが、兄・政次(高橋一生)とはまた違った、屈託のないキャラクターを自然に演じている。そんな井上に、初日が桶狭間のシーンだったという撮影の裏側や、政次・玄蕃兄弟の関係性を語ってもらった。
――今回が初の大河、さらに初の時代劇ということですが、出演が決まった時の感想を教えてください。
お話を聞いたときは、とてもうれしかったです。大河に出られるなんて、響きからしてすごいことじゃないですか。
舞台の公演期間中に発表になったので、共演者の方たちから「よっ、大河俳優」と声を掛けられたのを覚えています。ただ、ミュージカルでは、日本人を演じることすら少ないので、右も左も分からないまま知らない世界に飛び込む感覚でしたね。実は、その舞台で佐名役の花總まりさんと一緒だったので、「所作の稽古に行ってきました」など、よく情報共有をしていました。
――撮影が始まってからの感想はいかがですか?
初めての世界ですから、すごく興味深いなと思います。特にセットは、こんなにすばらしいものなのかと驚きました。ミュージカルだと、ここまで作りこむことはあまりないんです。
初日が桶狭間の戦いのシーンだったのですが、セット自体のすばらしさはもちろん、雨が降っていたのを再現して地面もぐちゃぐちゃで、役作りというよりも、その環境に自分を置けば、自然と気持ちが出来上がりました。
――まげや甲冑を付ける機会もあまりないと思いますが、ご自身の扮装した姿を見たご感想はいかがでしたか?
まげは初めてなので、「こんなふうになるのか…」と思いました。欧米の人を演じると、ノーズシャドウをして、なんとか彫りを深く見せようと努力していたんです。それが時代劇の扮装だと、当然ですが日本人にしか見えない。それに安心しました(笑)。
甲冑は、着たときはうれしいのですが、30分くらいすると重く感じてくるんです。それに「もう、トイレに行けないんだ…」という恐怖心で、かなりそわそわしていました(笑)。和物の殺陣も初めてだったので、どうやったらいいのかと悩みましたが、出来上がったものを見るとすごい迫力で。やはり、ずっと続いている分、ノウハウがあるんでしょうね。監督や殺陣師の方が「そこ、もっと抑え目に戦っといて」と指示を出すのを聞いて、画面の埋め方にも計算があるんだなと感心しました。
――演じる玄蕃のキャラクターはどのように捉えていますか?
家や立場が重要な時代に、空気が読めないのか、あえて読まないのか、自分の思いに正直ですね。弟の気楽さがあるのか、さほど出世を気にする様子もないですし、妻を愛していると素直に言うところなんて、現代人に近い感覚を持った人だなと思います。
でも、ただ能天気なのではなく、兄をずっと見ていて、その苦しさを感じているはずです。(高橋)一生さんとも「皆、小野に冷たい」と話しているのですが、宴の場面で二人だけが酒に手を付けないところなんて、特に小野家の立場を表していますよね。一生さんも、「玄蕃が来てくれたからまだいいけど、政直(吹越満)いなくなってから、ずっと一人だったからね。結構つらいよ」と言っていて…(笑)。だから、玄蕃は間に入って中和するような役割だと思って演じています。
――性格は対照的な政次・玄蕃兄弟ですが、二人の関係はどのように感じていますか?
同じ立場で同じ苦しみを分かち合っているのですが、玄蕃は兄ほど背負っているものがないので、その立場でこそ見える景色や言える意見があると思います。大事な場面では、それを政次に伝えているので、すごくいい兄弟だと思います。
父があれだけくせ者だったので、息子たちには葛藤があると思うんです。でも、息子である以上、立場を引き継がないといけない。政次は、葛藤を抱えながらも父の役回りを引き受けていますが、玄蕃はもう少し違う生き方をしたいと思っているように感じます。
――玄蕃は、政次と次郎法師(柴咲コウ)、直親(三浦春馬)の幼なじみ3人の関係をどのように見ているのでしょうか?
僕個人としては、それぞれがそれぞれを思いながら、家の問題などもあって自分の思いを我慢しているというのは、すごくキュンと来るいい設定だと思います。
でも、弟としてはどうでしょうね。直親が帰ってきたことを祝うシーンを撮りましたが、政次はどんな思いで直親を迎えているのかな…というのはすごく考えましたね。戦国時代の兄弟ですから、あまりざっくばらんには話さないと思うんです。「次郎法師さんのこと、どう思ってるの?」とか(笑)。だからこそ、玄蕃はもどかしい思いで政次を見ていると思います。
――逆に、玄蕃は思っていることを素直に伝えますね。
玄蕃は、妻のことをすごく愛していますし、政次の姿を見て「自分は、(思いを)はっきり伝えよう」と考えている面もあると思います。この時代の人が、こんなにはっきり愛を伝えるものかは分かりませんが、妻である“なつ”役の山口(紗弥加)さんとも「素敵な人だよね」と言い合っています。山口さんは、「(子供を授かる秘訣を聞かれた玄蕃が)『愛です!』と言うシーンで、玄蕃のことがすごく好きになりました」と言ってくれて。自分のことを褒められているようでうれしくなりました(笑)。
――柴咲さんの印象はいかがですか?
ご一緒のシーンがまだなくて、リハーサルで拝見しただけですが、台本を読んで想像していた以上に、等身大という感じがしました。自分は我慢しても物事を前に進める人なので、日本的な“耐える女性”を想像していたのですが、やはり城主になる人だなと。
柴咲さんのリハーサルを見ると、いい意味で勢いとエネルギーがすごくあって新鮮でした。テレビを通して、どう伝わっていくのか楽しみですね
――今回の出演を生かして、日本の時代モノのミュージカルをやってみたい、という思いはありますか?
日本の歴史は詳しくないのですが、自分がクリスチャンなのもあって、天正遣欧使節のようにキリスト教に関わった人たちに興味があります。あるいは、ジョン万次郎もそうですが、日本を飛び出して行った人。そういう方の多くは、歴史の渦に巻き込まれて幸せな人生を送っていないイメージがありますが、ミュージカルにはしやすいと思います。外国のシーンもありますしね。