“朝ドラ”こと連続テレビ小説「おちょやん」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか※土曜は一週間の振り返り)。杉咲花演じる千代の新たな挑戦が描かれる第21週「竹井千代と申します」(第101~105回/4月26~30日)で鍵となる人物が、塚地武雅の演じる人気芸人・花車当郎(はなぐるま・あたろう)だ。今回は、お笑い芸人ながら俳優としても活躍する塚地について、フリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が解説する。(以下、一部ネタバレが含まれます)
空気を和ませ、あたたかい笑いに包む
「おちょやん」も佳境に近づいてきて、主人公・千代に新展開。夫・一平(成田凌)と破婚して失意のどん底にいた千代に花車当郎(塚地)が手を差し伸べる。ラジオドラマ「お父さんはお人好し」で当郎と共演することで千代の人生は変わるのだ。
この救世主的な役に塚地武雅がぴったり。いつでもどこでも空気を和ませ、あたたかい笑いに包んでしまう彼の力でドラマに弾みがついた。ここでは塚地の俳優としての魅力を深掘りしてみる。まずは今回の役どころ・花車当郎のことを簡単に振り返っておこう。
当郎と千代との最初の出会いは第83回。戦時中、防空壕に避難したときに即興で漫才のようなことをして、ギスギスした人々の心を和ませた。そのときの芝居の相性が良かったのだろう、当郎は千代に注目していて、新作ラジオドラマに彼女を推す。しかし千代が引退したと聞いて慌てて説得に向かう。
あまりに辛いことが身の上に起こっている千代は頑なに出演を拒むが当郎は諦めない。たわいない冗談をどんどん重ねて笑わせながら千代の懐に入っていく。
当郎の笑いは何かを批判することもなく誰も傷つけない。強いていえば自分を道化にして笑わせる。第103回では、自分の失敗談を語ったり、ふいに「お腹が空きました」と話題を逸らすようなことをしたりして、千代の固い心をほぐした。
一見すれば、たわいないことをやっているが、そこに当郎の計算や話術の鍛錬がある。もちろん人柄も。善人なだけでなく一流の芸人である当郎は塚地武雅だからこそ成立する役である。