川栄の役は広島で原爆に遭った人物。清楚で実直で、現実から目を逸らさない強さに人間の命の儚さの両方を併せ持った多岐に渡る表情には目を見張るものがあって、彼女は戦時中を描いた朝ドラヒロインを演じられそうだと期待した。
結果、オーディションを受けて彼女が獲得した朝ドラ「カムカムエヴリバディ」のヒロインは戦時パートではなく現代パートの担当だったとはいえ、「夕凪の街」の印象があるからか、ひなたには単にバブル手前の日本が最も空虚だった時代の人物とは思えない何かがある。彼女に安子やるいから脈々と流れるものを感じるのだ。
「カムカム」第15、16週はひなたのドタバタコメディ編という雰囲気だったが、このまま最終回までこのノリではないそうで、堀之内礼二郎チーフプロデューサーによると第17週以降は「徐々にシリアス味を増していきながら、様々な登場人物たちのドラマが描かれていくので、第16週ではその前にひなたの明るさや役割を存分に味わってもらおうと考えました」(※木俣冬執筆 ヤフーニュース個人「〈カムカムエヴリバディ〉錠一郎は20年間、何もしてないのか? 気になり過ぎてチーフPに聞いた」より)とのこと。
今後は安子編やるい編で描かれたことがひなた編に繋がっていくようだ。祖母、母からひなたがどんなバトンを受け取るのか、川栄の真骨頂はここからではないだろうか。
川栄は「カムカム」の次の朝ドラ「ちむどんどん」のヒロイン黒島結菜が主演した「アシガール」(2017年)ではおしとやかなお姫様を演じ和モノもイケると思わせた後(のち)、大河ドラマ「青天を衝け」(2021年)では徳川慶喜の妻で公家の娘・美賀君を貫禄をもって演じていた。
時代劇から大河へ――朝ドラの脇役からヒロインへ――着実にステップアップしている。