青森発信の思いを強めた、津軽塗職人の祖父の引退

――王林さんは「伝統工芸品の販路拡大について 津軽塗を中心に」というテーマで、大学の卒業論文を提出されています。これも青森発信の観点からですか?
私が入学したのは経法学部で、青森の良さを広めるのに経営的な面から考えることも必要なんじゃないのかと思ったからです。どうやって、誰を的にして、どういう商品なら手に取ってもらえるのか。津軽塗を特に取り上げたのは、私のお爺ちゃんが津軽塗の職人さんだったからです。今は閉めてしまったんですけど、その理由が寂しかったんですよね。
お爺ちゃんは津軽塗の1つ、ななこ塗の職人さんでした。ななこ塗って格段に難しいと言われる塗り方で、今はもう職人さん自体が数少ないんです。それなのにお爺ちゃんが止めてしまったら…と思ったけど、修繕依頼ばかりで新しいものが売れない、お弟子さんを食べさせてあげられないという現実的な問題があったんですよね。今そういう状況なんだと知って、すごくショックを受けて。誰かが本気で動かないとこの素晴らしい文化がなくなってしまうと思い、この論文を書きました。
――継ぐ人がいないからではなく、食べさせていけないからという理由。そんな経緯があっての「販路拡大」なんですね。
でもいざ取り掛かってみたら、また違う現実も見えました。物の土台を作る職人さん、塗る職人さん、それを売る人というのがかっちり分かれてしまっていて、どこかの職人さんが新しい津軽塗を作りたいと言っても、そこが1つになっていないから形にしていけない。若い塗りの職人さんには新しい発想があるんだけど、昔気質の土台の職人さんはその新しさについていけなくて断られてしまうとか。伝統ってとても大切だけど、だから新しいことができないって残念じゃないですか。
YouTubeも開設予定。海外にも向けた青森発信
――王林さんは以前テレビ番組で、ご自身がプロデュースした津軽塗のイヤリングを紹介していました。
あれが若い人をターゲットにした新しい津軽塗の1つです。やってみたいという職人さんと作った商品で、他にもピアス、リングを作っています。私がこうして先に立つことで、若い職人さんが動くきっかけになってほしいんです。
――商品化したものの手応えはどうですか?
んん…。目標にはまだまだですね。津軽塗って値段がすごく高いんですよ。職人さんが手間と時間を掛けて手作りしているものだから。日本だとまだ理解があるけど、海外にはそこが届いていません。以前、作ったアクセサリーを海外に持っていったとき、まず日本的な工芸品に興味は持ってくれるんです。でも、値段を伝えるとびっくりされちゃう。「そんなに高いの?」って。けれど、そこにどういう工程があるのかを知ってもらえたらきっと納得してくれると思うんです。
津軽塗って海外の方が好きな和の商品だし、木が材質で、食器や家具とか、元々は大切にしたいものに漆(うるし)を塗って、丈夫にして使っていくという考えから生まれたもの。そういう津軽塗発祥の想いも世界に届けたいんです。海外の方ってエコに敏感だから、絶対気に入ってくれると思うんですよね。
――そこの突破口は見えていますか?
私の仕事の強みって、こうやってメディアに出られること。私が津軽塗のアクセサリーを身に付けて出ることで、興味を持ってくれる人がたくさんいます。SNSもそうだし、これからYouTubeも開設するつもりなので、日本だけでなく、海外とはそういうツールでつながっていきたいです。
