佐々木千里役・椎名桔平コメント
NHKで戦争について考えるドラマを、「アイドル」というテーマで制作すると聞いた時は、一瞬耳を疑いました。これまでの感覚から、もっと重厚なテーマを予測しがちだったので。でも脚本を読むと、しっかりと戦争が大きな背景として描かれていて、目まぐるしく移りゆく戦時中の人々の心情が、「ムーランルージュ・新宿座」を舞台に、明るく、エロチックでコメディーな演目によって語られ、そのギャップがむしろ悲しく切ないと感じました。ロベルト•ベニーニの「ライフ•イズ•ビューティフル」を彷彿させられる戦争の痛烈な痛みです。ムーランを作り“娯楽第一”を信条に、疲れ切った観客に希望を与え続けた支配人、佐々木千里。ケチで博打好きで女好きという人間味溢れる彼を、生き生きと演じたいと思います。
作者・八津弘幸コメント
戦時下に多くのファンを励まし愛されたアイドルの物語。最初にこの企画で声を掛けていただいたとき、面白そうだなと思うのと同時に、うまく書けるだろうかという不安が過ぎりました。というのも、“朝ドラ”「おちょやん」を執筆したときに、戦時下における娯楽を描くことの難しさを嫌というほど味わったからです。
明日待子らアイドルたちも、ムーランルージュという劇場も、そこに押しかけるファンたちも間違いなく実在し、自分の“推し”の名前を叫び、一緒に歌って踊っていました。その光景は今と何も変わりません。そんな彼女、彼たちが、戦争によって何を奪われ、何を願っていたのかと向き合うことは、奇しくもコロナ禍に不要不急が叫ばれる現在、娯楽はどこまで必要なのか、僕たち自身に突きつけられた問題とも向き合うことでした。
そして試行錯誤を繰り返し、答えを模索して、どうにか本を完成させた矢先、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発しました。実際にその悲惨な現実を目の当たりにして、正直、僕は今わからなくなっています。終戦ドラマにありがちな、重く暗い作品にはしたくない、などと言っていた自分は、浅はかだったのではないか。ふと気づけば、これこそまさに当時の登場人物たちが抱えていた葛藤と、同じなのかもしれません。それでもアイドル・明日待子のように、見て下さった皆さんが元気になれるように、前を向けるようにという思いで書きました。この作品が少しでも明るい明日につながる、皆さんの“推し”となってくれたらうれしいです。
演出・鈴木航ディレクターのコメント
2018年の暮れ、私が札幌でお会いした98歳の明日待子さんは、あの戦争の時代に多くのファンを熱狂させたという、トップアイドルの輝きをまとっていました。「苦しい時代だったけど、私の青春でした」待子さんのこの言葉から、特集ドラマ「アイドル」は出発しました。あの頃の日本にも、今の私たちと変わらないアイドルがいて、ファンがいて、不要不急と言われながらエンターテインメントを守り続けた人々がいました。“戦争”は、その日常から地続きにあったのです。戦時下の時代に輝いた女の子の青春の日々を、めくるめくショーとともに描きます。是非、ご期待ください。