コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットな漫画情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、零(れい)さんの歴史上の人物を題材とした漫画をご紹介。時は17世紀、バルト海の覇権を握るスウェーデン国王・カール11世。大国デンマークから嫁いだ王妃・ウルリカ・エレオノーラ。彼らはスウェーデンとデンマークの講和の証として結婚した、つまり政略結婚による夫婦。新人の召使は、国王夫婦の仲が冷え切っている様子にヒヤヒヤ。「きっと公務以外では顔を合わせたくないんだろう…」と思う新人召使だったが、国王の居室に入ってみると、そこには仲睦まじい国王夫妻が!カール11世の母である太后を筆頭に、デンマークと親しくすることを反対する勢力が数多くいるため、国王夫妻は不仲であることを演出していたのだった。この“逆仮面夫婦”の漫画は9.3万いいね(2022年9月現在)を獲得。零さんは漫画に合わせてウルリカが亡くなった際のカール11世のエピソードも「仮面を被れなくなった日」として紹介しているが、漫画と逸話の数々に、「尊すぎる」との声が多く寄せられた。歴史上の人物を題材にした漫画を数多く手がけている零さん。なぜ、歴史漫画を描くようになったのか話を聞いた。
神話好きから古代史好きに。「世界史で一生遊ぶ予定です」
子供の頃からエジプト神話やギリシャ神話が好きだったという零さん。そこから自然と古代史が好きになり、歴史全体にも興味が及んでいくようになったのだそう。現在の創作活動の原点は、「高校生の頃、授業中に百人一首や歌人たちのイラストや漫画を描いて遊んでいたの始まりだった気がします」とのこと。学校の世界史は得意だったのかと思いきや、「興味のある時代以外は普通に暗記で乗り切っていました。成績は理系科目の方が良かったです」という意外な回答が返ってきた。
そんな零さんに惹かれている歴史上の人物を聞くと「惹かれる…とは認めたくないのですが、昔からタレーランが好きです」とのこと。タレーランとは、フランスの政治家でフランス革命期からナポレオン時代、復古王政期時代に活躍した人物。変節と裏切りを繰り返したため、「裏切りの天才」と評されている。しかし、外交官としてはさまざまな功績を残した。
「ずば抜けて優秀な外交官で、魅力的な人物で、間違いなくフランスを何度か救っているのに、汚いんですよね。美徳と悪徳が喧嘩せず、むしろお互いを引き立てあっているというか…。この人のせいで外交史が好きになりました」
外交史が好きという言葉の通り、零さんの作品では、国同士の駆け引きや思惑、背景についても描かれているのが興味を掻き立てる。読者の中には零さんの作品で世界史に興味を持てた、という人もいるようでそういった反応をうれしく思っているのだそう。
「好きな人物やエピソードを紹介したくて漫画を描いているので、『世界史に興味を持てました』とか、『○○を好きになりました』のような反応をいただくと小躍りします。創作を枕草子に例えていただいた時は、畏れ多いと思いつつ、本当にうれしかったです。あのプレゼン力の高みを目指して頑張りたいと思います。世界史で一生遊ぶ予定です。これからもよろしくお願いします」
王宮の助けも得て完成した仮面夫婦の漫画
実在の人物や史実を漫画に落とし込むのは大変そうだが、どういった点に気をつけているのだろうか。
「登場人物を人間として描くというか、それぞれの思考や目的が理解できるように気をつけています。でないと“キャラに年表を喋らせているだけ”になってしまう気がして。ページ数の都合できちんと描写できないと判断したら、人物の存在ごとカットすることもあります。長くても8ページに収めているので、常に尺との戦いです」
零さんの漫画には参考文献も示されていることが多く、参考文献へのあたり方にも気をつけているんだそう。
「できるだけ複数の資料を読むのはもちろんですが、特に“際立っておもしろいエピソードを”を見つけた時は絶対に裏取りをしています。あとは出典を確認することでしょうか。複数の資料で確認できたと思ったら、実は全部同じ資料からの引用…ということが結構あります」
参考文献や資料をきちんとあたることに気を遣っている零さんだからこそ、「スウェーデンの仮面夫婦」は一度お蔵入りになりかけたんだとか。
「仮面夫婦の漫画は2019年にスウェーデンの王宮を観光した際、公式ツアーで聞いたエピソードに着想を得ています。ですが、当時メモを取っていなかったので、複数の国王夫妻のエピソードを混同して覚えてしまっていました。調べても当然ながら裏取りができず、数年前なので記憶も曖昧で…。もう企画ごとボツにしようかとも思ったのですが、最後にダメ元でTwitterのスウェーデン観光情報サイト(@letsgosweden)様にメッセージを送ったところ、大変親身に相談に乗ってくださり、王宮の問い合わせフォームを紹介していただきました。一国の王宮に私的な問い合わせを送るのは緊張しましたが、なんと5日ほどで返信がきました。しかも、担当の方が他の部署にまで確認を取って、私のうろ覚えエピソードのここが○○夫妻、ここが○○夫妻…と詳細に教えてくださったんです。王宮もツアーも本当に素敵でしたが、今回のことでさらにファンになりました。自分の漫画が少しでも恩返しになっていれば幸いです」
スウェーデン王宮からの助力というこれ以上ない力を得て完成した漫画は零さんの作品の中で一番の“バズり”を得た。
「推しカプを布教できた達成感を感じました。スウェーデン旅行からずっと、事あるごとに語ってきた夫妻なのでうれしいです。さらなる布教に努めます」
創作活動においての目標を聞くと、「いつか作品をまとめて紙の同人誌を出してみたい」とのこと。その一冊は歴史の浪漫とおもしろさが集まったものになるに違いない。今後の作品にも期待だ。
取材・文=西連寺くらら