ずっと見守っていたくなる人々の関係性
主演を務めたのは、代表作に「北の国から」(フジテレビ系)シリーズを持つ俳優の吉岡秀隆。原作を踏襲しながらも、ドラマオリジナルの展開やキャラクターをうまく盛り込んで構成した吉田紀子の緻密な脚本や、同局で「101回目のプロポーズ」や「ひとつ屋根の下」といった名作に携わってきた中江功監督の演出もさることながら、吉岡の名演なくしてこのドラマは成立しなかったといえる。子役からキャリアをスタートさせた吉岡は、山田洋次監督にその才能を見出され、「男はつらいよ」シリーズで主人公の寅次郎(渥美清)の甥っ子・満男役を長年に渡って演じた。また、1981年より2002年まで続いた「北の国から」シリーズの黒板純役でもお馴染み。そんな吉岡から、良くも悪くも根強かった名子役のイメージを払拭したのがこのコトー役である。
コトーの魅力はなんといっても、執刀中の天才外科医ぶりと普段の親しみやすい人柄とのギャップであろう。多くの人にとって医者とは、何となく近寄りがたくて怖いイメージがあるが、コトーは違う。いつも穏やかな笑顔を携えている彼は見るからに人が良さそうで、患者に対しても壁を作ることなく、船酔いしたり自転車で転んだりといった情けない部分も見せてくれる。一見すると頼りなさそうなのだが、緊急時には冷静な判断と適切な処置で患者の命を救う凄腕のドクターだ。だけど時には救えない命を前に悩み、葛藤する人間味あふれるコトーを、吉岡がコミカルとシリアスを巧みに使い分けた演技で表現。彼が演じたからこそ、コトーは愛され、ひいては作品自体が愛されるものになったのではないか。
また、彩佳を演じる柴咲コウの存在もこの作品を語る上で欠かせない。彩佳は、柴咲の代表作「GOOD LUCK!!」(TBS系)の緒川歩実役や「ガリレオ」(フジテレビ系)の内海薫役にも通ずる、いわゆる“ツンデレ系”のヒロインだ。最初こそコトーに不信感を抱いていたものの、他の島民と同じく彩佳もまた彼のことを尊敬し、看護師として影響されていく。それと同時に異性としてもコトーを意識し始めるが、なかなか素直な態度を取れない彩佳。コトーに他の女性の影が近づくたびに嫉妬する姿は可愛らしく微笑ましいが、鈍感なコトーは気づかない。なかなか進展しないふたりの関係に観ているこちらもヤキモキさせられた。そんな二人が16年ぶりの新作では夫婦になっているという。しかも、彩佳はコトーの子どもを妊娠しており、作品のファンからは喜びの声があがった。
本作は、恋愛に限らず、人と人との変化していく関係もまた見どころだ。コトーに最初に命を救われた少年・剛洋(富岡涼)と、その父であり漁師の剛利(時任三郎)や、ドラマオリジナルのキャラクターであるスナックのママ・茉莉子(大塚寧々)と離れて暮らす息子の竜一(神木隆之介)の不器用な親子関係であったり、村役場に勤める彩佳の父・正一(小林薫)と妻の昌代(朝加真由美)、同じく村役場の職員である孝(大森南朋)とその妻・ゆかり(桜井幸子)の夫婦愛、漁労長である重雄(泉谷しげる)や診療所の事務員を勤める和田(筧利夫)、第2期で登場した新任看護師のミナ(蒼井優)をはじめとする周囲の人間模様など、ずっと見守りたくなるような関係性がそこにある。全員が個性にあふれた奥深いキャラクターであり、目が離せない。そんな彼らに映画ではまた会える。なんと剛洋役の富岡涼は芸能界を引退していたが、この映画に出演するために復帰したそうだ。ドラマからの続投キャストが勢ぞろいで臨む映画「Dr.コトー診療所」が今から楽しみだ。