2023年1月13日(金)に藤ヶ谷太輔(Kis-My-Ft2)主演映画「そして僕は途方に暮れる」が公開される。本作は2018年にBunkamuraシアターコクーンで上演された同名の舞台を原作としており、こちらでも同様に藤ヶ谷が主人公の菅原裕一を演じた。恋人、友人、仕事仲間、家族など、都合が悪くなるとあらゆる人間関係を断ち切って逃げ続ける裕一はどうしようもない人間でありながら、作中では一抹の愛くるしさものぞかせる複雑な役どころ。そんな“クズ男”を再び演じる上での思いや、物語の中と同様に人生を左右した決断について聞いた。「逃げることは恥だという考え方はなくなりました」と語る藤ヶ谷の哲学とは。
演じる主人公・裕一は「クズ過ぎると愛くるしいのかな」
──2018年の舞台と今回の映画で、いずれも主人公・菅原裕一を演じる藤ヶ谷さんの思う「そして僕は途方に暮れる」という作品の見どころを教えてください。
誰もが一度は絶対に思ったことがある「ここから逃げたい」という欲を、主人公の裕一が実際に行動に移します。裕一は、携帯の電源を切って人とのつながりを断ち切っていきますが、その先どうなっていくのかが見どころ。舞台のときもそうでしたけど、裕一を見て最初は「クズだな」と鼻で笑っているのが、見ているうちに「私もこういうところがあるな」とか「自分もこういうことをした経験がある」という部分が出てくると思うんですよ。急に自分に刺さるというか。その緩急がこの作品の深さだと思います。
──藤ヶ谷さん演じる裕一は、おっしゃる通り“ダメ男”。ダメ男を演じるための役作りはどのように行ったのでしょうか?
台本を読んでいるだけだと、最初はなかなか裕一という役がつかめなくて。やり過ぎてもわざとらしく見えてしまうし、どうしようかなと思っていたんですが……この役は三浦さん(三浦大輔監督)がご自身を投影しているところもあるので、三浦さんになってみようと思って観察してみたんです。そしたらやりやすくなって、つまりは三浦さんもクズなんじゃないかと思っています(笑)。
──そんな裕一ですが、関わっている人たちはみんな彼を見捨てずに関わり続けます。藤ヶ谷さんからみて、裕一の魅力はどこにあると思いますか?
確かに裕一はクズですが、不思議と彼には彼女もいるし、親友もいるし、友達もいるんですよね。クズ過ぎると愛くるしいのかな。中途半端なクズだと嫌われるけど、いきすぎると愛されるんじゃないかと、裕一を見ていると思います。ダメ男が好きな方とかもいますよね、「私がどうにかしてあげなきゃ」とか「私が守ってあげなきゃこの子はダメになっちゃう」とか、そういう気持ちになっているんでしょうね。しかも裕一って、見た目がすごく汚いとか、言葉が乱暴とかではまったくなくて。ただただ一生懸命生きているからこそ、愛くるしさがあるんですよね。あとは、一周回ってカッコいい人なんじゃないかなというのも思っていて。僕自身も逃げたいなと思うことはもちろんありますけど、逃げ切れずに戻ってくる瞬間のことを考えて「どんな顔で戻ってきたら良いんだろう」と思うと、結局逃げられない。でも裕一は逃げていますからね。カッコいいのかもしれない。とりあえず僕も休みの日には、裕一のように携帯の電源を切ってみようかなと思いました(笑)。
「舞台あいさつが全然楽しみじゃなくて困っています(笑)」
──舞台と映画で同じ役を演じたことで、舞台と映像での表現の違いは感じましたか?
最初に「そして僕は途方に暮れる」を映像化すると聞いたときは素直にうれしかったです。自分で気づいていないだけかもしれないのですが、自分には裕一の要素がないので、「また裕一を演じられるんだ」という喜びがあって。でもよくよく考えたら「あのつらい現場をもう一回やるんだ……」と気づいて落とされもしました(笑)。舞台と映像の違いで言うと、映像だと、振り返ったときなどの顔の寄りが撮れること。あとは舞台だとサイズが決まっているのですが、映像だと逃げるときの距離も桁違い。実際、ものすごい距離走りましたし。そうやって作品がより立体化していく感じがして面白かったですね。
──前田敦子さん、中尾明慶さんは舞台に引き続きの共演となりますが、ひさしぶりに共演してみていかがでしたか?
裕一として、一緒にいて落ち着くトーンがあるなというのを、おふたりともに感じました。また一緒にできる安心感もありましたね。かといって「おひさしぶりです」ってワーッと話すみたいなことはなかったのですが。何せ、楽しいシーンが1つもない映画ですから。だから撮影中も楽しい思い出が1つもないんですよ。苫小牧に行ったときに、フェリーの駅でちょっと時間があったので、お土産屋さんでじゃがポックルを買って食べたんです。僕、じゃがポックルが好きなので。それくらいですかね、いい思い出は(笑)。
──現場も、劇中のピリピリした雰囲気に近かったんですね。
そうですね。コロナ禍での撮影だったのであまりしゃべれなかったというのもあって。まぁ、そうじゃなくてもワーッと話すことはなさそうですけど(笑)。シーン的に“僕と誰か”というのを繰り返すので、そもそも全員でわちゃわちゃみたいなシーンがないんですよね。だから、三浦さんとも話していたのですが、舞台あいさつどうしようと思って。「撮影時の思い出」とか「撮影の裏側でこんなの発見しちゃいました」とか聞かれるじゃないですか。「それ、言わないでくださいよー!」って盛り上がるやつ。そういうのが一切ない(笑)。むしろみんな思い出しながらテンション下がっていくかもしれない。たくさんの人に映画を見ていただきたい気持ちはすごくありますが、今のところ、舞台あいさつが全然楽しみじゃなくて困っています(笑)。