「犬公方!死ね!」と男が罵り、刃物を振りかざす
右衛門佐と茶を飲みながら話をする綱吉。欲得抜きで自分を慈しんでくれたのは父上だけだという綱吉に、右衛門佐は「桂昌院様こそ最も欲得ずくで上様に関わっておられる人だと私は思います。この期に及んでもそれを慈しみとすり替え、すがっておられる上様が哀れでなりません」と苦言を呈するが綱吉は怒らずに苦笑する。
夜、綱吉が男と寝所にいると、男はやおら刃物を出して綱吉に襲いかかる。秋本(中川大輔)が男を斬りつけて事なきを得るが、男は「もはや世継ぎも産めぬくせに相変わらずの色狂い、恥ずかしくないのか!? 犬公方!」と口汚くののしるのだった。
一段落して綱吉は右衛門佐に「あの刺客が言っていたことはみな正しい。私は結局、将軍として善政を行うことも、世継ぎを得ることも、人に望まれたことは何一つできなかった。私は何のために生まれてきたのか」と言う。
そして、綱吉は右衛門佐に下がるように命じるが、右衛門佐は「下がりませぬ。なぜならあなたさまはお一人になられたら命を絶つおつもりだからです」と言う。「何を馬鹿な」という綱吉に右衛門佐は「生きなさい」というと、綱吉は目に涙を貯めて「嫌じゃ、もう疲れた」と力なく笑う。
「生きるということは、女と男ということは、ただ子孫を残し、家の血を繋いでいくだけではありますまい!」と右衛門佐は力を込めて説く。涙を流して「嫌じゃ!」と声を荒げる綱吉に、右衛門佐は強引に唇を重ねる。驚いた綱吉が抵抗しても右衛門佐は「いやや、私の夢やったんや! もう死ぬというなら今叶えさせてもらう」と涙を流しながら綱吉に告げる。綱吉は嗚咽しながら自ら右衛門佐に唇を寄せていく。その夜、綱吉と右衛門佐は初めて体を重ねたのだった。
翌朝、寝所で右衛門佐は綱吉の肩を抱いて、笑いながら語り合う。「子を成すためではなく女性とこうしているのは生まれてより初めてにございます。ここには何もない、ただの男と女としてここにおるだけです。こうなったのが今のあなたで本当によかった」と慈しむように綱吉の頭や顔を撫でて語りかける右衛門佐。綱吉と右衛門佐は涙を流しながら固く抱き合った。
それこそ欲得もなにもなく純粋に愛し合い心が通じ合った綱吉と右衛門佐。彼らが喜びを噛みしめて寄り添う姿に、見ている方も胸に熱い思いがこみ上げてきた。
◆構成・文=牧島史佳
TCエンタテインメント