長らくテレビを見ていなかったライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は「バナナマン日村が歩く!ウォーキングのひむ太郎」(毎週火曜夜10:30～11:00、BS朝日)をチョイス。
日村とバカリズムの思い出話はずいぶん尊い「ウォーキングのひむ太郎」
何を見るかに迷ったら、『ウォーキングのひむ太郎』を見ればよい。ただひたすら、バナナマン日村の、街ブラとは到底呼べない速度で歩く姿と街の風景を映し続けるストイックな番組。あくまでウォーキングが主役で、日村が何かしゃべっているときも歩く日村の後ろ姿を映し続けたりしていて、のんびりしているようでいて絶えず躍動している様がまさにウォーキング、なのである。私の「こういうのが見たい」を詰め込んだこの神番組の魅力は、この連載で何度か紹介してきたので、詳しくはそちらに譲りたい。
今回、またこの番組の話をしたいのは、今回の内容が日村とバカリズムによる思い出話の応酬合戦であったから。日村が下北沢で思い出話をする回にも飛びついて記事を書いているので、そもそも私は人の思い出話が好きなのだろうが、今回はひとりで完結する思い出話ではなく、同じ時を過ごした相手役がいてのものだから、よりヒートアップ。「ここでこういうことがありましたね」「そうでしたね。たしかこういうこともありましたね」というように重なっていく、記憶に色が戻っていく感覚。その答え合わせがたとえ事実と違っていようとも、もはやそれは関係がない。
先月、私も数年ぶりに地元に帰省した際、東京の友人と一緒に街を歩き、「ここでこういうことがありました」と紹介してまわった。友人は真摯に聞いてくれ、とても楽しかったのだが、どうせならば、その友人との思い出の場所に行って「そうでしたね」と返してもらいたいなあとかワガママにも思ったりもしながら、とにもかくにも、思い出話をしているあの時間ってなんであんなに楽しいんでしょうね。特に、「ここで何がありましたよね」「わかりませんね。何かありましたよね」みたいな、おぼろげな思い出についての会話をしてる時って、花火を両手に持ってるときぐらい楽しい。
日村とバカリズムのふたりは、ただひたすらに、自分たちの思い出を辿って歩いていく。行きつけの店の経営が変わっていたり、バイトしていたカラオケが潰れていたり、言ってしまえば内輪の話、彼らの自己満足でしかない様子がテレビに映って私に共有され、あのビリヤード店は、カラオケの跡地は、鑑賞者にとっても、少しだけ特別なものになる。それだけでずいぶん尊いものである。帰省の途中、浜松に寄ったのだが、それも、ただ友人の地元であるからだ。自分には縁もゆかりもなく、行ったこともなかった浜松が、思い出の共有によって、なんとなく特別な場所になっている。人生は短く、アクセスできる事物や場所はごくわずか、だからこうして、又聞きでもいいから、それについて知り、それについて何かを思う、というのが必要。それでも、この世のほとんどを知らないままに死んでいくのだ。なんて儚いのだろう、、、
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