“人の無防備さ”がいっぱい盛り込まれてる気がします
「姉貴 開けてくれてありがとう」首吊り気球の洋介(第3話「首気球」より)
今回、神セリフとして選んだのは「首吊り気球」に出てくるセリフです。人気アイドルの女の子・輝美が突然首つり自殺してしまうお話で、その友達・和子が主人公なんですけど、ニュースでは芸能活動についてすごく悩んでたとか言われていて、そんなの何も聞いてなかったと落ち込みます。更に輝美はどうやら白石という彼氏がいたらしく、彼も自分が追い詰めたかもしれないと後悔していて。
それから数日経って、今度は彼女の幽霊を目撃する人が続出してるというニュースが流れ始めます。大きな彼女の顔が空に浮いてるのを見たという話で、イラスト化されたり専門家がコメントしたりして、数日前まではみんな悲しんでいたはずなのに、急に彼女の死を笑い話にする人たちが増えてくるんですね。それを見た和子が白石に大丈夫?と声をかけると、まさかの白石も幽霊を見たと。その日の夜なのか、白石から電話がかかってきて和子が見に行くと、本当に輝美の大きな顔が空に浮かんでいたのです。
白石が木に登って、気球みたいな輝美の顔に対して泣きながら手を伸ばすと、急に空から降りてきた縄に首を吊られてしまいます。その縄の先を見ると、白石の大きな顔の気球がついていました。そして2人の気球が、首を吊られた白石を揺らしながら上空で何度もキスを…。その光景はもちろん気味悪いんですけど、なんかちょっと綺麗で。お互いの傷をなめ合うというか、癒やし合っているような感じにも見えました。
その後、自分の顔をした首つり気球に首を吊られるということで、世界中が大パニックになります。しかも気球を壊そうとすると本体の自分も死んでしまうので、みんな家に閉じこもるしかなくて。徐々に食料とかもなくなっていくので、和子のお父さんや弟は大丈夫だからと言ってみんな外に出てくんですよ。
最終的に和子だけ部屋に閉じこもって隠れていると、窓の外から弟の声が聞こえてきます。確かに弟は外に出ていったけど、首吊りの縄に傘を引っかけてかわしたところを和子は見ていたので、生きてる可能性がある唯一の人物だったんですね。だから和子は、やっと帰ってきた、私1人じゃないんだって喜んで、窓を開けてしまいます。でもそこにいたのは、傘と一緒に無残な姿で首を吊られている弟の姿…。
そこで気球の方の弟が「姉貴 開けてくれてありがとう」と言い、その隣には静かに和子の気球が飛んできて、今まさに縄が首に引っかかる!というところで、終わります。
なぜこのセリフを選んだかというと…ただただ、ひどい!!(泣)親友が自殺して悲しんで、苦しんでいたことを知らなかったと悔やんで、親友の死をエンターテインメントっぽくされて傷ついて…とあまりにも和子が振り回されすぎて、最後くらい生き残って欲しかった!
しかも最後も、自分の命を守るためみたいなエゴとかじゃなくて、弟を助けるための行為、純粋な家族愛を利用されたわけじゃないですか。そこまでして殺そうとする意図は何!?もはや、意図が1つもわからないですよ!輝美にも辛いことがあったんだと思いますが、他人を巻き込みすぎじゃない?とも思います。
でもこのお話で描かれている通り、本当かどうかもわからない噂をみんなが鵜呑みにして、最近まで悲しんでたことがエンターテインメントとして消化されるというのは、現実でも起こることですよね。それに、みんなが気球に吊るされちゃったのも、どこかで「自分なら平気だ」っていう気持ちがあって無防備だったからだと思うんです。
それって、SNSとかも同じだと思っていて。傷つけるつもりはなくても、ちょっとした心無い言葉がその人にとっての引き金になっちゃったりとか、自分は大丈夫だろうと思ってやった行為が損害賠償に発展したりするわけじゃないですか。輝美が自殺してしまった理由はわからないけど、その理由に可能性として結びつけられる“人の無防備さ”がいっぱい盛り込まれてる気がしました。
輝美に対する心無い言葉や配慮に欠ける内容が匿名で発信されていたのなら、輝美にとっては誰が言ってたかわからないので、世界中が巻き込まれたということも考えられますよね。加害者になる可能性があった人たちがみんな死んだという形にも見えて、誰も幸せになれなかったんだなと悲しくなりましたし、だからこそ、気をつけなきゃいけないなとも強く思いました。
このお話はとにかく情報量が多いので、これも見た人の意見を聞きたいです!見る人によって怖いと感じる部分も、興味深いと感じる部分も絶対違うので、みんなで丸くなって語り合いながら見たい作品です。