宮藤官九郎が企画・監督・脚本を務めるドラマ「季節のない街」が、8月よりディズニープラスの「スター」で全10話独占配信されている。物語の舞台は、12年前に起きた“ナニ”で被災した人々が暮らす仮設住宅。月収12万円を超えると即立ち退きとあって、みんなギリギリの生活を送っていた。そんな“街”で見たもの、聞いた話を報告するだけで報酬がもらえると軽い気持ちで潜入した主人公・半助(池松壮亮)と、街の青年部のタツヤ(仲野太賀)、オカベ(渡辺大知)の3人が中心となり、18世帯のワケあり住人たちを映し出す。今回は本作全体の見どころ、そして第7話、8話「がんもどき」で大きくフィーチャーされる内気な女性・かつ子を演じる三浦透子の魅力について、音楽をはじめ幅広いエンタメに精通するフリージャーナリスト・原田和典氏が紹介する。(以下、ネタバレを含みます)
原作は山本周五郎の同名小説
原作は、昭和の初期から中期にかけて活躍した作家・山本周五郎(1903年生まれ、67年死去)が1962年(昭和37年)に発表した同名の小説。つまり今から60年以上前の作品である。「東京オリンピック開催の2年前」「アメリカ大統領はジョン・F・ケネディ」「ビートルズやボブ・ディランがレコードデビュー」「橋幸夫と吉永小百合の『いつでも夢を』が大ヒット」、そうした年に「季節のない街」は世に出た。
そして1970年には、この小説を原作とした映画「どですかでん」が黒澤明監督の初カラー作品として公開。私は小説を未読のまま、黒澤監督の特集上映で「どですかでん」を見た。日光の照り返しのような、粗野で野蛮で泥臭いエネルギーがダイレクトに迫ってくる印象を受けて、ひたすら興奮したのを覚えている。アナーキーなまでに毎日を生き生きと生きる姿とはこういうものなのだ、ということを俳優の頭師佳孝が演じる登場人物の「六ちゃん」(今作では濱田岳が演じている)は示してくれた。その「季節のない街」が装いを新たに連続ドラマとして、現代屈指のキャストたちによって、2023年によみがえった。
今回のドラマ化では、企画・監督・脚本を宮藤が務めていて舞台はいま現在の2023年。つまり「時代劇」になることを賢明にも避けている。だが、当然ながらストーリーの背骨や筋肉は原作に基づいているから、そこに戦後昭和の、戦争に負けて復員してきた男たちがまだ大きなステータスを持ち、妻を「おまえ」などと呼んで、妻が場を離れているときには肉体の力ないしは社会的な力で他の女性を押し倒すこともあった時代のヌメリが加わり、結果として、相当に層の厚いミクスチャーが創り出された。
いやはや実に癖になる泥臭さだ。人情、友情、地元愛から、こなまずるさまでをドドーンと含めて「特定の地域での人間関係」を濃厚に描いている。まるで奥歯でかみ締めるとジュッと出汁の味がしそうな、こうした作品が劇場に行かなくとも配信で楽しめる日が来ようとは。どのストーリーもねちっこいまでに味わい深い作品であった。そんな本作で、第7話と第8話でひときわフィーチャーされているのは、極めて内気な女性・かつ子役の三浦だ。
“2代目なっちゃん”としてデビュー
三浦は2021年の濱口竜介監督作品「ドライブ・マイ・カー」でも相当に無口な運転手役を務め、「第45回日本アカデミー賞」新人俳優賞を受賞した実力派女優。同作はフランス「カンヌ国際映画祭」、アメリカ「ゴールデングローブ賞」など、日本のみならず世界的にも映画界の話題をさらい、メインキャストの一人である三浦の名も世界に知れ渡った。今回の「季節のない街」でも間(ま)やわずかな表情の差異、一挙一動で無口ながら雄弁に「語っている」。
そんな彼女は、2002年にサントリーの清涼飲料水「なっちゃん」のCMに“2代目なっちゃん”として出演し、芸能界デビュー。ということは現在26歳にしてキャリア21年のベテランだ。「天才柳沢教授の生活」「鈴木先生」「架空OL日記」「カムカムエヴリバディ」「鎌倉殿の13人」「エルピス—希望、あるいは災い—」などのテレビドラマで存在感を示し、「おやすみ、また向こう岸で」「いないかもしれない」では主演を務めている。出演映画も「ドライブ・マイ・カー」の他、「私たちのハァハァ」「月子」「素敵なダイナマイトスキャンダル」「21世紀の女の子」「ロマンスドール」「そばかす」「とべない風船」などなど、枚挙に暇がない。
https://www.disneyplus.com/ja-jp/series/a-town-without-seasons/
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