映画の作り手を志した若手時代
「オンエア見てないからよくわかんない」
松重豊扮する「豊豊さん」は「おげんさんのサブスク堂」(2023年7月22日NHK総合)で自身も出演した「アンナチュラル」(2018年TBS系)などのサウンドトラックの話題になった際、見ていないことを明かした。きっとそのクールとも思える役との距離感こそ、松重豊たる所以なのだろう。
中学生の頃、パンクロックを聴き始めた。音楽が好きになり、音楽を仕事にしたいと思いつつも楽器が弾けなかったこともあり挫折した松重は、石井聰亙監督の映画「狂い咲きサンダーロード」(1980年)を観て映画の世界に魅了され、当初は映画の作り手を目指していた。
バイト仲間だった甲本ヒロト
その頃、下北沢のラーメン店「みん亭」でミュージシャンの甲本ヒロトとお互い無名時代にバイト仲間だったというのは有名な話だ。仲良くていつも一緒にいたという松重の印象をヒロトは「素敵な人だから。魅力的な人だから、何かはするだろうなと思ってた」(「たまむすび」2023年1月18日TBSラジオ)と語っている。実は当時、ヒロト主演で松重が監督し映画を撮る計画もあったと松重は回想する。
「当時、僕が監督をした映画でヒロト君が主演してくれたんですが、僕の力不足で作品が完成しなくて、申し訳ない気持ちでいっぱいです。だから、僕はもう二度と映画監督をやるとは言わないし、ヒロト君も役者は絶対にやらないと、封印してしまった。でも、これだけは声を大にして言いたいんですが、ヒロト君はすごい俳優の才能があるんですよ!」(「テレビドガッチ」2013年7月29日)
そんな関係だったから、松重は「THE BLUE HEARTS」誕生の歴史的瞬間も“目撃”している。ある日、ヒロトに「今度のバンドはこんな名前じゃ」と教えられ、「ブルー? カッコ悪りぃなあ、その名前! 青い心? なんじゃそれ」と言ってしまったという。「基本的に見る目がないんですよ」と自嘲する。