コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、『かくりよの千日雛』(実業之日本社)をピックアップ。
明治時代を舞台に、亡くなった人の魂を回収する鬼の子がひょんなことから人間と一緒に幽霊退治をする物語を描いた本作。7月21日に、作者で漫画家のやまくじらさんがX(旧Twitter)にて第1話を公開したところ2.6万以上の「いいね」が寄せられ、反響が相次いだ。この記事ではやまくじらさんにインタビューを行い、創作の背景やこだわりについてを語ってもらった。
“人間には見えない”鬼の子と“幽霊が見える”人間 感情あふれる表情描写も話題
時は明治19年、夏。寿命の尽きた人間の魂を集めてまわる小さな鬼たちは、あの世とこの世を行き来しながら閻魔様へ魂を届けるため日々一生懸命働いていた。
ある日、子どもの鬼である寅輔は町を歩いている最中、人間の男・相馬と偶然出会う。鬼たちは人間から見えない存在でありながら、自分のことを認識して声をかけてくる相馬に驚く寅輔。相馬は寅輔が魂を集めていることを知り、“幽霊退治にちょうどいい”として霊が出ると噂の蔵へ向かうことに。
蔵に着くと、ある女の幽霊が佇んでいた。「海に身を投げたときに外れてしまった指輪を捜している」と明かし、心残りから涙を流す幽霊。形が歪んでしまった魂は連れていけないと言う寅輔だったが、幽霊の悲しそうな姿を見てどうしても助けたいと思った2人は一緒に指輪を捜すことを決意する。
途方もない頼みごとに思われたものの、指輪の特徴を聞いたことをきっかけに寅輔が予想外の行動に出る。そして、幽霊に“あるもの”を見せて…。
鬼の子と人間、そしてこの世をさまよう幽霊たちが織りなす、あの世とこの世の“命”の物語。あたたかみのあるタッチで描かれる登場人物それぞれの表情描写も印象的で、心に響く結末とあわせて読者の感動を集めた。X(旧Twitter)上では「可愛くて切ない」「不思議な世界の住人たちの優しさに涙」「素敵なお話」「感動した」「世界観に引き込まれる」「空気感が心地良い」など多くのコメントが寄せられ反響を呼んでいる。
テーマの根幹にあるものは“命” 作者・やまくじらさんが語る創作背景とこだわり
――『かくりよの千日雛』が生まれたきっかけや理由があれば教えて下さい。
『かくりよの千日雛』の元となるものは、大学の時くらいに考えていたと思います。その時は単純に、鬼の子達が妖怪などに邪魔されながらも人間の魂を集めるという少年漫画っぽい話だったのですが、時を経て色々考えていくうちに、今の話として完成していきました。
一番大きかったのは、作中のキャラクターと近い経験をしたような子が身近にいて、命について考える機会があったからかもしれません。命がどこから来てどこへ行くのかというのは、他の作品を作る上でも、ずっとテーマの根幹にあるような気がします。
――魂を集めてまわる子どもの鬼・寅輔と霊が見える相馬、それぞれのキャラクターや関係性はどのように生み出されたのでしょうか？
寅輔や相馬、また他のキャラクターも、特にこういう人物を出そうと考えた訳ではなく、物語と一緒に自然に生まれてきたように思います。かくりよでは特に子供に対する大人が必要だったので、一番意識したのはちゃんと大人に見える人物を出す、というところかもしれません。実を言うと相馬はより大人に見えるべく、もっと武骨なヒゲ面で考えてたんですが、さすがにちょっと見目がよくないわね…ということで今の爽やかな感じに落ち着きました。
子供達は初期イメージから何も変わっていないです。とても安産です。
――本作は全6話で1巻完結となっていますが、物語や世界観を創り上げていくうえでこだわった点や「ここを見てほしい」というポイントがあれば教えてください。
このお話は最終話のためにすべてが作られているので、ぜひ最後まで読んで頂きたいです！また、1話と6話をちょうど対になるようにしているので、最後まで読んでからもう一度読むと、最初とは違った気持ちで楽しめるかなとも思います。
こだわった点としては、時代を細かく設定している分、なるべく当時の流行や出来事、考え方などを作品の中に落とし込むように心がけました。その時代を生きる人々を描きたかったので、時代をファッションとして使わないよう、そこを選ぶ意義というものを明確にしたかったというのがあります。ただ話数が少なかったこともあって、描ききれなかった部分も多くあり…特に明治の料理や食べ物などはもう少し描きたかったな〜と思っています。
あとストーリーとは関係ないんですが、画面の端でちょこちょこ動いてる豆太郎はぜひ沢山探してほしいです。
――本作の中で特に思い入れのあるシーンやセリフはありますか？
最終話のために描いていた作品だったので、やはり最終話に一番思い入れがあります。特に相馬がねねにかける言葉や、最後の船頭さんの言葉などは、シンプルながらも深い愛情を感じられる言葉になったかなと思っています。
また、この作品は三途の川や海、ソーダ水など、全体を通して水の描写が多く出てきます。水の描写は作品のテーマとも通じているので、そこの作画は出来うる限り頑張りました…！あと個人的にお化けを怖がって逃げる鬼の子供達がとても好きです。
お話として好きなのは3話目で、巳山が出てくると雰囲気が賑やかになるので、もう何話か彼の出る話を描きたかったなと思ってます。
――やまくじらさんは本作以外にも『箱庭の魔女』や『荒ぶる神々の漫画』など神話や民俗学、ファンタジーをテーマにした作品を多く描かれていますが、その理由や創作活動全般においてのこだわりがありましたら教えてください。
元々大学で民俗学を学んでいたので、その影響がとても大きいと思います。歴史が好きで、歴史を学ぼうと思って入った学科が民俗学だったんですが…自分が学びたかったのは正にこっちの方だったので、奇跡的な出会いだったと思います。
また、母方の実家が岩手の山奥にあり、毎年遊びに帰っていたので、都会では見ることのない物凄い自然というものに畏怖や不思議さを感じていたことも、大きなルーツになっていると思います。こういう得体の知れないものは何なのか、どこから来ているのか、それを自分なりに考えて組み上げていったものを、形にして発表しているのが私の創作なのかもしれません。
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へメッセージをお願いします。
基本的に寡作ではあるのですが、それでも追って読んでくださる方がいることが本当に有難いです。作品を読んで、ほんの少しだけ心を軽くして、また明日へ向かって歩いていく、その一助になれたならば、こんなに嬉しいことはありません。
これからも色んな作品を描いていきたいと思っているので、ぜひ、お側に置いて頂けたらなと思います。これからも、どうぞよろしくお願い致します！
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