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<台湾ホラー考察>「人面魚 THE DEVIL FISH」に見る民間信仰・伝承をもとにした恐怖と“絶妙な違和感”

2024/03/12 12:00

台湾ホラーに息づく実体感のある怖さ


台湾ホラーには、土地に根ざした民間信仰、伝承、都市伝説などをもとにした作品が少なくない。本作もそうだ。紅い服の少女シリーズの1・2作目は、心霊番組に投稿された1本の動画から広がった都市伝説と、山には魔神仔という妖怪もしくは精霊がいるという言い伝えを合わせて、「紅い服の少女は魔神仔だ」という説に基づいてつくられている。

シリーズ3作目である本作では、2作目に出てきた虎爺に焦点があてられた。虎爺もまた、台湾では民間信仰の対象だ。

ゾンビや殺人鬼が意味もなくあらわれて惨劇が繰り広げられるというパターンは、台湾ホラーではあまりお目にかからない。代わりに、昔から言い伝えられたものや実際にあった出来事に、人の愛憎や罪や後悔が織り重ねられて、恐怖が形作られていることが多いように思う。実在のモノに人として不変の感情を掛け合わせることで、心にじっとりとまとわりつくような、湿度や粘度の高い実体感がある恐怖が生まれるのだ。

荒唐無稽な世界観に納得感を持たせる絶妙な違和感ぐあい


加えて、実在の民間信仰、伝承、都市伝説などをもとにしていることによって、台湾ホラーには多少の荒唐無稽さや理屈の通らなさも「台湾ではこういうものなのだな」と力技で納得させられてしまう力強さがある。

例えば、本作では多くの日本人が「人面魚」と聞いて思い浮かべるであろう人面魚は出てこない。「え、そこが人面なの!?」とギョッとするのではないだろうか。

また、悪魔祓いの儀式をするにあたって、霊媒師のジーチェンは「魔神を揚げる」と宣言する。翻訳のニュアンスがなにかおかしいことになったのかと考えつつ見ていたのだが、ジーチェンは魔神が宿った魚を言葉の通り"油で揚げた"ので、度肝を抜かれた。しかも、その魚を普通にゴミ捨て場に捨てる(だからこそ、少年が稚魚を拾えてしまったわけだ)に至っては、日本の当たり前とは異なりすぎて「そういうものなのだ」と納得するしかない。

台湾は日本と似ているようで、やはり異なる文化を持つ異世界なのだ。そう感じさせる絶妙な違和感が散りばめられていることで、作品全体の世界観にかえって違和感なく没入できる。「虎爺を自分に乗り移らせる」というのも、「魔神 vs. 虎爺」という構図も、台湾ホラーにやたら道士が出てきて強い力をふるっても、スッと受け入れて純粋に"台湾ホラー"という異世界を楽しむことができるのだ。

荒唐無稽な世界観でも納得感を持って没入でき、そこに実体感のある恐怖が用意されている。だからこそ、日本人は台湾ホラーに惹かれるのではないだろうか。

この記事はWEBザテレビジョン編集部が制作しています。

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■【映画】人面魚 THE DEVIL FISH
2018年
監督:デビット・ジュアン

2018年台湾年間興収第4位
2019年金馬奨ビジュアルエフェクト賞ノミネート
2019年台北映画祭最優秀編集賞、最優秀女優賞ノミネート
カタロニアン国際映画祭 最優秀作品賞

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