人望のないピアニストVS皮肉たっぷりの古畑
使う人が限られている日本語というのがある。「〇〇したまえ」、「わきまえなさい」など、上の立場から身分が下の人や部下に向かって使う言葉などがそうであり、発言する人によっては大層、偉ぶって見えてしまうため、現代では聞く機会が減った。
ところが、今回事件の犯人である薫はスタッフへの態度が大きく、若い楽団員のことを強く叱責し、周囲に恐れられている存在。古畑が薫への疑いを濃くしたのは、音楽葬の演奏であるのに亡くなった塩原・前理事長を悼むレクイエムを弾かず曲を変更したからである。
変更した理由は、葬儀の前に舞台上のピアノの弦が切れて出ない音があることを不安視した薫の機転が利いたからなのだが、誰よりも先にその事実を知るのは川合を殺した犯人しかいないという点で、薫は大きなミスをしてしまったのだ。
事件のクライマックスで古畑は、すべての罪を暴いた後で、ステージ上の薫に「聴かせてもらえませんか、井口さんのレクイエム」と発言するが、薫は古畑の少々失礼で軽々しい提案を拒否。「大それたこと言うのね、あなた。わきまえなさい」と言い残しステージを降りた。このセリフは薫の気の強さやプライドの高い性格を明確に表しており、往年のドラマファンの印象にも残っていることだろう。
古畑が指一本でピアノの黒鍵のみを使って「函館の女」を披露するなど、小ネタも散りばめられている。冒頭で「問題なのは、自分が人に嫌われているのが分かっていない人」と皮肉を言ったり、古畑の犯人へのあざとい追い込み方が光る第6話であった。