――そんな不思議な2人の関係はラブシーンでも垣間見えますね。
子供の頃のスキンシップの延長みたいな。あれは、智らしいですよね。フワ~っとした感じで泰子に接していく感じが。あのシーンに関しては、2人の男女の欲望のようなものが見えたら絶対駄目だと思いながら演じていました。
――泰子を演じた初音さんの印象は?
主演としてこの作品に懸ける覚悟だったり、泰子に対する思いだったり、そういったものが現場でもずっと出ていたような気がします。初音さんが演じる泰子は、とても切なそうなんです。その感じがとてもいいなと。智として向き合っていて、いろいろ刺激を受けました。
――智の母・直子役の草刈民代さんも劇中で独特のオーラを放っていましたね。
直子は面白いキャラクターでした。今回の作品では、草刈さんとの出会いも大きかったなと思っています。長年、バレリーナとして体を使って表現して来られた方なので存在感がすごかったですし、単純に格好いい女性だなと。
何かを表現する時には、心を動かすことはもちろんですけど、まずは体を動かすことから始める面白さもあるんだなと気付きました。撮影の合間には、本や映画の話などがたくさんできましたし、とてもすてきな時間が過ごせたと思います。
――物語の後半で、智が自分の思いを泰子に告げるシーンが印象的でした。
長いせりふがあったんですが、すぐに覚えられました。たぶん、智の心情が自分の中にスッと入ってきたからなんでしょうね。自分の中では“覚えやすい”というのがポイントで。それだけ、無理なく智になれたのかなと。でも、そうなった時に学んだのは感情のコントロール。
もうすぐで30歳になりますけど、自分から出てきたものをどうやって表現していけばいいのか。その気持ちのコントロールが今後の課題かなと思っています。
――大人になった泰子と智がタンスの中に入るシーンでは、2人の自然なリアクションが見られたような気がしたんですけど、あれはどこまで台本に書かれていたんですか?
全部、ちゃんと書かれていましたよ。ある意味狙って作ったものが見てくださった方の心に引っ掛かって、泰子と智の関係が自然に見えたと言ってもらえるのは、すごくうれしいです。
――作品の見どころは?
角田光代さんの原作は、人の心を安心させるというよりはどこか抉ってくるような感覚が魅力的。そこに、安藤監督ならではの時間の進め方、人物の切り取り方などが加わって、とても面白い作品になっていると思います。
田園をバックに泰子と智が自転車に乗っているシーンは長回しということもあって、時間がゆっくり流れているし、都会では見られない光景ですよね。
“普通の生活”というものが特殊な形で描かれていますけど、だからこそ気付くこと、思うことがあるのかなって。映画を見て、何かを感じていただけたらと思います。
10月7日(土)よりテアトル新宿ほか全国公開
(C)2012 角田光代/中央公論新社 (C)2017「月と雷」製作委員会