名脇役たちが盛り上げる人間ドラマ
同作の魅力の1つとして、個性豊かな登場キャラクターたちも忘れてはいけない。ドラマ版よりレギュラーで出演している風呂光聖子(伊藤沙莉)は、男社会の警察組織で常におどおどして男性上司から叱咤されている。独自の視点から事件を解決に導いた久能に信頼をおき、捜査協力依頼をする巡査・池本優人(尾上松也)、大隣署の巡査部長・青砥成昭(筒井道隆)。彼らはそれぞれ悩みを抱えており、久能のひと言で前に歩き出せたという共通点を持つ。
ストーリーごとに登場するキャラクターもまた魅力的。特に奇妙な絆で結ばれた犬堂とのやり取りは、どこか微笑ましいものがある。犬堂と久能はある事件をきっかけに知り合った仲だが、お互いがまた会って話がしたいと考えるほどシンパシーを感じていたようす。理知的なキャラクターは似ていただけに、「友だち0人」を宣言していた久能の友だち第1号の座に近かったのだが…。
また映画版に登場するキャラクターたちも“見えない傷”を抱えている人物が。たとえば柴咲コウ演じる赤峰ゆらは、専業主婦として一人娘の幸(秋山加奈)を育てている。しかし彼女が義父に「お前は家にいて、子育てや家事だけしていればいいんだ」「それが女の幸せだろう」と言われているところを見た久能が、いつもの調子で疑問の声を上げた。
「どうしてそう思えるんだろう」から始まった長口上は、義父だけでなくゆらも驚かせた。義父の言う“女の幸せ”という言葉を引き合いに、“人から押しつけられた幸せ”ではなく「自分のなかから出てきた言葉を使ってください」と告げた久能。そこでゆらのなかに駆け巡った母として、1人の女性としてのさまざまな想いが現れた表情は、とても印象に残っている。
さらに原が演じる汐路も、物語を通して成長する人物だ。否定したい過去との向き合い方、辛い現実との戦い方、先を生きるための考え方。それらを久能だけでなく周囲とのさまざまな触れあいから学んでいく。彼女の成長もまた、同映画の大きなテーマと言えるだろう。
そんなキャラクターたちが盛り上げる同作は、タイトルの通り「ミステリ」作品ではない。社会問題、人間の本質に迫るテーマを盛り込んでいる同作だが、先述のとおり謎解き部分では「完璧に言い逃れできない証拠で犯人を自白に追い込む」わけではないのだ。
登場人物たちが抱える闇は、現代では多くの人が間違いなく持っている。そしてそこから一歩、不幸にも道を踏み外すに至ったのが犯人たち。そこに至ったのは外的要因もあり、かつ自分のコントロールの問題でもある。久能はそうした闇を責めるのではなく、事実と言葉で罪の本質を解きほぐしていくだけ。
見事な推理シーンのカタルシスはたしかに同作の魅力ではあるのだが、本質は事件にまつわる人間心理だといえる。久能の言葉は、犯人だけでなく視聴者の心にも届く。ハッとさせられるような強さはなく、淡々としたリズムに合わせるように、じんわりと沁み込んでいくのだ。
ちなみに原作2巻のあとがきでも、原作者である田村由美が同作について「すいませんミステリじゃないです」「そんな難しいもの描けるもんか!」とつづっている。この部分を取っても、同作の主軸がミステリではなく、人間ドラマであることの証左と言えるかもしれない。
放送されるたびにSNSで話題になったドラマ「ミステリと言う勿れ」。フジテレビが2025年1月2日(木)の朝7時から1月4日(土)に渡って、全12話を一挙放送するという。併せて2023年に大ヒットを記録した映画「ミステリと言う勿れ」もフジテレビ系列にて2025年1月4日(土)夜9時から完全ノーカット版を地上波初放送。久能のもたらす心が落ち着き、揺さぶられる人間ドラマをふたたび楽しむチャンスだ。
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発売元:フジテレビジョン
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(C)田村由美/小学館 (C)フジテレビジョン
■公式サイト
https://www.fujitv.co.jp/mystery/
■映画版公式サイト
https://not-mystery-movie.jp/
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