現在上映中の「劇場版ドクターX」。2012年にテレビドラマ第1シリーズが始まって以降、全7シリーズが放送された人気シリーズを映画化した注目タイトルだ。米倉涼子演じる主人公・大門未知子の決めゼリフ「私、失敗しないので」が印象的な本作は、特定の病院や医局に属さない“フリーランス外科医”の活躍を描く医療ドラマ。橋田賞や向田邦子賞をはじめとする各賞を総なめにしたという輝かしい歴史を持つ同シリーズにおいて、“ファイナル”として制作されたのが、現在上映中の「劇場版ドクターX」だ。公開から17日で観客動員130万人、興行収入18.5億円を突破と“有終の美”を飾る「ドクターX」の軌跡を、いまいちど振り返る。
誰もが魅了される大門未知子というキャラクター
多くの魅力を持ち合わせる「ドクターX~外科医・大門未知子~」シリーズだが、特に人気の柱となっているのが主人公・大門未知子のキャラクターだろう。群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い…専門医のライセンスと叩き上げのスキルだけを武器に突き進むフリーランスの外科医・大門未知子。演じる米倉涼子の美貌も相まって、“孤高の美人女医”という人物像は多数の視聴者から憧れの視線を集めた。
特技は手術、趣味も手術という個性的な性格を持つ未知子。「私、失敗しないので」という一見傲慢にも思える決めセリフに恥じない抜群の腕前を持ち、“ドクターX”とも呼ばれている。
さらに勤務時間は絶対厳守。医師免許不要の雑用は一切引き受けず、院内にありがちな権力闘争にも無関心を貫く。教授の下働きや付き合いを「いたしません」の一言ですべて拒否し、誰に対しても物怖じせず言いたいことを口にする姿には“雇われ”としての卑屈さが微塵も感じられない。
また医師同士の“政治”がはびこる大学病院内においては、誰の派閥につくかという立ち回りが栄達に直結する。しかし未知子はそうした権力や名誉を意に介さないため、大物であればあるほど「大学病院内の常識」が通じない未知子の振る舞いに戸惑うのだ。
一方で、“完璧ではない”のも未知子が愛される理由。手術以外のことにはもっぱら弱く、麻雀も下手、芸能人や政治家などの著名人に関してもまったく知らず、親しい人にとってはむしろからかわれる側のキャラクターなのだ。誰も逆らえない大物医師をぎゃふんと言わせる腕を持ちながら、プライベートではキュートな未知子。そのギャップが、視聴者をトリコにする。
主役を引き立てる名脇役たちの存在も欠かせない
奇跡的な腕を持つ未知子が大看板なのは間違いないが、同シリーズが12年にわたって愛され続ける魅力はそれだけではない。「ドクターX」ではカッコいい未知子に“振り回される脇役部隊”のキャラクターもまた、大事な味付けなのだ。
シリーズではお馴染みの「神原名医紹介所」は、未知子が所属する組織。フリーランスとして働く彼女の仕事を斡旋する事務所といったところか。同組織には未知子と同じフリーランスの麻酔科医として働く城之内博美(内田有紀)や神原晶(岸部一徳)が所属している。博美は未知子の影響を受けた形でフリーランスとして独立した経緯があり、2人の間には特別強い絆が感じられる。また神原は大きな秘密を握っている人物で、シリーズを超えて横たわる「謎」に関係する人物。普段の朗らかなやり取りとのギャップが、余計に視聴者の興味をそそった。
また忘れてはいけないのが、縦社会の医局で“御意軍団”を形成する外科医たち。海老名敬(遠藤憲一)、加地秀樹(勝村政信)、原守(鈴木浩介)の3人で、上からの指示には絶対服従という“普通の外科医”の姿をユーモラスに表現していた。もちろん名前の由来は、上からの指示に「御意」と声を揃えて従うためだ。
ちなみに第7シーズンからは興梠広(要潤)、三国蝶子(杉田かおる)、鍬形忠(小籔千豊)が“新御意軍団”として登場。これは同シーズンから元祖御意軍団が従っていた以外の派閥が東帝大学病院にやってきたためで、野村萬斎演じる蜂須賀隆太郎の“蜂須賀派”の御意軍団が現れた…という経緯がある。
その“蜂須賀派”が現れるまで「東帝大学病院」の最大派閥だったのが、院長代理・蛭間重勝。故・西田敏行さんが演じていた“院内政治に長けた古狸”で、さまざまな局面で未知子とのバトルを繰り広げる名悪役だった。
手段を選ばないがゆえに悪事を暴かれ、同病院を解雇されたり逮捕されることもあった蛭間。それでもなお同病院の院長代理や外科分院長として返り咲くほどの実力はある意味本物だろう。悪役ながら何度もカムバックするという異例のキャスティングは、西田による迫力とユーモアを兼ね揃えたキャラクターが長く愛され続けてきた証でもある。
ポニーキャニオン