【テレビの開拓者たち / 森 彬俊】編集長が自ら語る“ノイタミナらしさ”へのこだわり
「いぬやしき」は、アンバランスながらも王道な世界観が面白い
──ノイタミナでは現在、奥浩哉さんの原作コミックのアニメ化作品である「いぬやしき」が放送中です。まず、本作を選んだ理由は?
「やはり奥先生の原作の魅力が一番大きいですね。それだけに、生半可にアニメ化できる作品ではないと思っていたんですが、それを『ユーリ!!! on ICE』(2016年テレビ朝日ほか)を手掛けたMAPPA(※アニメ制作会社)さんが制作、『TIGER & BUNNY』(2011年MBSほか)のさとうけいいちさんが総監督、『進撃の巨人』3D監督の籔田修平さんが監督という、考え得る限り最強の布陣がそろった時点で手応えは感じてました」
──冴えない中年サラリーマンだった犬屋敷が、異星人の手によって機械の体となり、人助けに目覚め、一方、同じ状況で機械の体になった高校生の獅子神は犯罪行為を繰り返す。この両者が戦うという構図が面白いですね。
「キャッチコピーにある『俺が悪役で… じじいがヒーローか…!』というのは獅子神の心情ですね。定石のパターンとは逆の設定なんですが、そこで描き出されるストーリーは、ストレートなヒーロー譚で。そんな、アンバランスながらも王道な世界観がとても面白い。普段アニメをごらんにならないような方も楽しめる作品だと自負しています」
──犬屋敷役が小日向文世さん、獅子神役が村上虹郎さんというキャスティングも注目を集めています。俳優の起用は賛否両論あったかと思いますが。
「このキャスティングは、僕というよりも、現場のプロデューサーである松尾(拓)のアイデアなんです。小日向さん、虹郎くんという意外なキャスティングによって、この作品は普通のアニメではないんだという、ある種のスケール感を出すというのが松尾の考えで。それって僕個人だとなかなか出てこないアイデアだし、チームだからこそ生まれるものなんですよね。こういった多様性が生まれるのがチームであることの強みだと思います。小日向さんは、それまで家族や社会からのけ者になっていた犬屋敷が、突然強大な力を持ってしまい戸惑う、その微妙な心の震えみたいなものを見事に表現されていて。素晴らしい俳優さんだと思いますね」
──先ほど、1クールに50本近いアニメ作品が放送されているというお話もありましたが、こうした状況は今後も続いていくのでしょうか? 一方では、アニメーションの業界は今、作品の量産で制作現場が疲弊してきているとも言われたりしていますが…。
「テレビ放送だけでなく、Netflix、Amazonプライム・ビデオなど、配信の存在が大きくなってきている中で、当然各社のオリジナル作品も増えていくでしょうし、きっと作品数は、これからますます増えていくと思います。ノイタミナも、放送直後にAmazonプライム・ビデオで配信させていただいているんですけど、これまでは日本のアニメ作品が海外に流通するまで時間のギャップがあったのが、ほぼ同時のタイミングで世界中に広がるようになった。それだけに、世界に向けた作品が増えていくのではないか、というのは何となく感じています。実写だと、演じているのが日本人であることがハードルになってしまうことがありますが、アニメにはそれがないし、全世界で配信するのに非常に適したコンテンツでもあると思うんですね。僕らはその中で、現場が疲弊しないよう、スケジュールの管理など、これまで以上に彼らのフォローに注力することが課題だと考えています」