【テレビの開拓者たち / 前田直敬】日テレ「バズリズム」プロデューサーが語る“音楽番組の存在意義”
テレビマンの自分とミュージックマンの自分が、せめぎ合って音楽番組を作っている
――バップ時代には、具体的にどんなことを学ばれたのでしょうか。
「バップで僕が担当していたのは、A&Rといって、アーティストや楽曲の発掘・契約などを担当する、総合責任者のような立場の仕事で。CDの売り上げはもちろん、販売店でのセールス戦略から、お客さんの反応まで、“音楽を売る”ということに関わる全てのことを知っておかないといけないんですね。そんな中で、個々の店舗のPR展開しだいで全体の売り上げが変わってくるとか、そういった現実も目の当たりにして。そのときに僕が実感したのは、送り手の熱は確実に受け手に伝わるものなんだ、ということ。そして、売り上げというのは、お客さん一人一人の元に商品を届ける、その積み重ねなんだということ。どちらも当たり前のことなんですが、こういったことを実感として理解できるようになったことは、僕の中ではものすごく大きな収穫でした。さっきもお話ししたように、『1000万人のお客さん』といわれても、漠然とした数字でしか捉えられなかったのが、バップでの経験を通じて、その1000万人は、1人1人が集まった1000万人なんだと実感できるようになったんです。例えば今、『バズリズムLIVE』(※「バズリズム」の番組発の音楽ライブ。2015年より3年連続で横浜アリーナで開催されている)をやるときも、僕は事前にいろんなライブを見に行くようにしていて。会場でそれぞれのアーティストのファンの顔を見ていると、コアマーケットを握っているお客さんはどれくらいいるのか、それを実数で捉えることができるんですよね。
ただその一方で、『1000万人のお客さん』をマスで捉える感覚もあって。また『バズリズムLIVE』を例に出してしまいますが、『バズリズムLIVE』は今や、横浜アリーナ2DAYSを成立させられるだけの動員力はある。でも、それをテレビで放送するときに、どう料理できるんだろうと考えると、横浜アリーナ2DAYSは、『バズリズム』という番組や出演アーティストがもう少しブレイクスルーしてからの方がいいんじゃないか。その方がアーティストのみなさんにとってもメリットが倍増するんじゃないか、といった考え方をするわけです。つまり、テレビマンである自分と、ミュージックマンである自分が、せめぎ合って音楽番組を作っているというか。そういった方法論が身についたのも、やはりバップでの経験が大きいのかなと」
――その“テレビマンの感覚とミュージックマンの感覚のせめぎ合い”は、やはり「バズリズム」という番組に最も象徴的に表れていますよね。
「そうですね。僕の中では『バズリズム』というのは、単なるテレビ番組じゃなくて。まず『バズリズム』という“ブランド”が真ん中にあって、そこから地上波の放送や、イベント、グッズ、さらにHuluの配信、いろんなものが派生していってる、というイメージなんです。もちろん、地上波放送には重きを置いていますが、あくまでも中心にあるのは『バズリズム』というブランド。最近流行りの言葉だと“IP”と言い換えてもいいんですけど、ともかく、そのバランスは間違ってはダメだと思っています」
――音楽番組に限らず、今のテレビは、こうした多角的な展開が必要なのかもしれませんね。
「それは時代の必然だと思いますね。もちろん、テレビはこれからも娯楽の王様じゃなきゃいけないし、日テレはその中でナンバーワンじゃなきゃいけない、というのは前提だと思うんですけど。ただ、日テレには高視聴率を叩き出す優秀な3番バッター、4番バッターがたくさんいますから、僕は僕で、自分なりの思考回路を武器に、クリーンナップ打線とは別のやり方で戦うべきなんじゃないか、という気がしていて。実際、『バズリズム』も一定の評価をもらえていますし、さらに言えば、『バズリズム』があるからこそ、『アイキャラ』という番組も生まれたんだと思います」