宮藤官九郎が「監獄のお姫さま」で歴代最多11回目の脚本賞を受賞!
――完成したドラマを見て、キャストの皆さんの演技はどう思われましたか?
皆さん素晴らしかったのですが、特に馬場カヨを演じてくれた小泉さんがすごく新鮮だなぁと思いました。「マンハッタンラブストーリー」(2003年TBS系)のとき、小泉さんは30代で、恋愛体質のタクシーの運転手役。当時の小泉さんにとって新しい役どころだったと思いますが、今回は“愚鈍なおばちゃん”という役柄になって、あんなにうまく演じてくれるとは思いませんでした。馬場カヨという人物のどこが面白いかっていうことを自分で見極めて、そこからあえてズラしていくというか外していくというか、そのさじ加減が絶妙でしたね。15歳ぐらい下の塚本高史くんとの恋愛も成立するかなぁと思ったけれど、まったく違和感がなかった。それでいて「あまちゃん」(2013年NHK総合ほか)の春子みたいに強気な部分もちょこちょこ出てくる。見ていて筋が通っていて面白かったですね。
――今回、助演女優賞は“先生”こと刑務官の若井ふたばを演じた満島ひかりさんが受賞されました。満島さんの演技はいかがでしたか?
「監獄のお姫さま」は前回、満島さんに出てもらった「ごめんね青春!」を書きながら考えたストーリーで、最初のアイデアは「満島さんが年上の女性に当たり散らす」というものでした。それで、刑務官という設定なら囚人のおばちゃんたちも力関係があるから逆らえない…。それがそもそもの発端なので、満島さんが若井を演じてくれなければ、このドラマ自体、成立しませんでしたね。そして、仕上がりを見ると、満島さんの演技が毎回すごい。刑務官としてビシっと決めてほしいところは決めてくれるし、婚活に走るような女子力を出してほしい場面はちゃんと出してくれるし。特に第8話で、馬場カヨが出所トレーニングする場面は若井も思わず涙ぐんでしまうんですが、真に迫っていて、あんなふうに演じてくれると、脚本家としてはなんの心配もいらないですよね。あと、第4話で「何か言いたいのは分かるけど何が言いたいのか分かんないのよ、おばさんは、愚鈍!」と言う場面、「愚鈍」の言い方が完璧だったのは、さすがだったなぁ。「そうそう。そういうふうに言ってほしかったんだよ」って思いました。僕の作品だけでなく、「カルテット」(2017年TBS系)の満島さんも全然違う人物になっていて素晴らしかったし、満島さんの中に “演技の正解”ってあるんだろうなぁと思いますね。
――伊勢谷友介さんが演じる吾郎が、馬場カヨの夫として出てくるなど、いろんな男性を演じていました。これは宮藤さんのアイデアだったんでしょうか。
そうですね。彼女たちにとっての悪い男を全て伊勢谷さんにやってもらって、吾郎という男が世の中のイケメン&クズ男代表に見えればというねらいでした。それはまず僕の作品に伊勢谷さんが出てくれるのは初めてだったので、どんなふうにお芝居をする人なのか、いろいろ演じてもらって早めにつかんでおきたかったんです。それに、展開上も吾郎には誘拐されてからずっと縛られているという制約があったので、回想シーンでカヨの夫や千夏(菅野美穂)の父を演じてもらいました。逆に決めていなかったのは、第9話で千夏が殺されたユキ(雛形あきこ)に成り代わる場面。そのアイデアが浮かんだので、菅野さんの衣装をユキに似た衣装に替えてもらいました。それで菅野さんが「ライク・ア・バージン」を踊るあの場面になった。まったくの思いつきですが、連続ドラマってそうやって途中で変わっていくのが面白い。最初に決めたとおりやるんだったら面白くないし、窮屈ですよね。今回は意外に決まりごとが多かったので、それを壊したいという気持ちもありました。ルールを自分で作って自分で壊すということができるのが連ドラを書く面白さ。左脳で考えて右脳で壊していた気がします。
――最終回では「どのおばさんも、みんな、誰かの姫なんだよ」という、もう若くはない女性を肯定してくれるセリフが出てきて、画期的でしたし感動的でした。
やっぱり塚本高史くん(宮藤作品4作に出演)にはいいセリフを言ってほしいと思って、最終回にとっておいたんです。そもそもの発想として、ドラマの世界では中高年女性の役が限られているような印象がありました。さっそうとしてバリバリ仕事ができる女性という描き方しかないのかと…。現実社会で女性が置かれている立場が厳しいから、そういったキャラクターに憧れるのかもしれませんが、だったら “愚鈍な”女性も魅力的に見せられるんじゃないかと。町をスエットはいて歩いているような女性もちゃんとかっこよく描けるんじゃないかと思いました。「監獄のお姫さま」ではそれが目標だったので、ラストは馬場カヨたちが法廷で吾郎に勝つところをきちんと描きたかったんです。そして、最後は「更正するぞ」という掛け声が「更正したぞ」になりました。今回、そんなふうに女性を描けたということで、自分の中にまたひとつ新しいチャンネルができたという感じがしています。
取材・文/小田慶子