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松山ケンイチとは何者か?【てれびのスキマ】

2018/03/15 06:00

カッコつけないから伝わる “本気”の精神


松山ケンイチは現在、「隣の家族は青く見える」(フジテレビ系)で、ヒロインの深田恭子扮する奈々の夫・大器を演じている。子供好きで玩具メーカーに勤める心優しい男だが、夫婦の間にはなかなか子供ができず、いざ不妊治療となると最初は面倒くさくなって消極的になってしまうような、ありふれた普通の男性として描かれている。松山が、こうした“普通”の役を演じるのは、逆に新鮮だ。

彼はアクの強い個性的なキャラクターを演じることが多い。特に、マンガのような二次元のキャラの実写化に起用されることが多かった。映画では「デスノート」(2006年)のL(エル)、「デトロイト・メタル・シティ」(2008年)のクラウザー2世、「カムイ外伝」(2009年)のカムイ、ドラマでも「銭ゲバ」(2009年)の蒲郡風太郎、「ど根性ガエル」(2015年共に日本テレビ系)のひろしなど、挙げればキリがないほど。そしてそのどれもがハマっているのがスゴい。その多くが実写化困難とされてきたものだ。にもかかわらず、松山ケンイチは見事にそれを実写に変換して演じ、視聴者から信頼を勝ち取ってきたのだ。何しろ、漫☆画太郎の伝説的カルトギャグマンガの実写映画版「珍遊記」(2016年)の山田太郎まで堂々と演じ、ハマってしまうのだから。

なぜそんなことができているのだろうか。一つの要因は、松山ケンイチが「カッコつけない」ことだ。

「家族がいるんで、人から嫌われてもいいやって思いました。もうどうでもいいですね」「他人にまで好かれる必要ねぇだろって」(日本テレビ系「しゃべくり007」2015年7/6)

彼はそんなふうに茶目っ気たっぷりに語っているが、それは自暴自棄になっているわけでも何でもなく、他人に「カッコいい」などと思われても仕方ないというハッキリとしたスタンスだ。自分がカッコよく映ろうという気が微塵もない。自分が道化になることを厭わない。「カッコ悪いことこそカッコイイ」という意識すらないのかもしれない。だから漫画的キャラになりきることができる。人間離れしたかのような豊かな表情も、そんな人に良く見られたいという意識のストッパーがないからこそできるものだろう。“憑依型”俳優といわれる所以である。

彼は「うまい」と褒められるのを嫌う。「うまいと言われるとがっかりする」とまで言い切っている(「週刊SPA!」2016年3/8号)。それだったら「何かわからないけど、気持ち悪い」と言われたほうがいいと(「週刊朝日」2016年2/26号)。 観た人に何かしらのインパクトを残そうとしているのだ。小手先の技術では、見てる人は騙されない。ならば、全身全霊で演じるしかない。

見た目なんかはどうでもいい。カッコ悪くても気にしないし、原作キャラに似てなくても気にしない。たとえば、「銭ゲバ」の風太郎は原作とは懸け離れた容貌だし、「珍遊記」の山田太郎は、画に似せることなどそもそも不可能だ。「デスノート」のLや、「デトロイト・メタル・シティ」のクラウザー2世を演じた際は完コピに近い見た目だったが、それは「衣装さんやメイクさんの力の結晶」だと複数のインタビューで言い切っている。そこへのこだわりはそもそもあまりないのだ。

彼が完全にコピーするのは、その“本気”の精神のほうだ。たとえば「珍遊記」の太郎は、ふざけた必殺技をたくさん持っている。だが、それをおふざけ半分で演じることはない。全身全霊を使って、「魂が口から飛び出すんじゃないか」(「週刊朝日」=同前)というほどの本気で言うのだ。主演した大河ドラマ「平清盛」(2012年NHK総合ほか)では、「面白く生きる」ことを心情とする「無頼」で明るい好青年から、年を追うごとに権力を手にし、闇に落ちて変貌していく男を鬼気迫る表情で演じきった。この作品は大河ドラマ史上に残る低視聴率という誹(そし)りを受けるが、松山はそんなことも気にしない。むしろ「逆にうれしかった」とまで言う。「だって、悪い評価にしても、ずっと残るわけですから」(「週刊SPA」=同前)と。

実際、低視聴率の話題になるたび、「でも内容は素晴らしかった」という反論がセットでついてくる。

「いかに本気を出したか」

そのことに松山ケンイチは魂を捧げている。なぜなら、“本気”が一番面白いし、伝わるからだ。もちろんそれは、全編ほぼ全裸のマンガキャラを演じる時も、“普通”の役を演じる時でも変わらない。

(文・てれびのスキマ)

人間離れしたかのような豊かな表情も、人に良く見られたいという意識のストッパーがないからこそ表現できるものだろう
人間離れしたかのような豊かな表情も、人に良く見られたいという意識のストッパーがないからこそ表現できるものだろう(C)フジテレビ


◆てれびのスキマ=本名:戸部田誠(とべた・まこと) 1978年生まれ。テレビっ子。ライター。著書に『1989年のテレビっ子』、『タモリ学』、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか』、『コントに捧げた内村光良の怒り』など多数。雑誌「週刊文春」「週刊SPA!」「TV Bros.」、WEBメディア「日刊サイゾー」「cakes」などでテレビに関する連載も多数。2017年より「月刊ザテレビジョン」にて、人気・話題の芸能人について考察する新連載「芸能百花」がスタート

この記事はWEBザテレビジョン編集部が制作しています。

「月刊ザテレビジョン」(毎月24日発売)にて、てれびのスキマが毎号1人の芸能人に絞り考察する新連載「芸能百花」がスタート! 第8回の“お題”「松山ケンイチ」は発売中の4月号にて掲載

◆てれびのスキマ◆1978年生まれ。テレビっ子。ライター。雑誌「週刊文春」「週刊SPA!」やWEBメディア「日刊サイゾー」「cakes」などでテレビに関する連載多数。著書に『1989年のテレビっ子』『タモリ学』など。新著に『笑福亭鶴瓶論』

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  • 高い満足度を獲得しているドラマ「隣の家族は青く見える」に出演中の松山ケンイチ(中央)
  • 【写真を見る】妊活に励む夫婦役を深田恭子と好演する
  • アクの強い個性的なキャラクターを演じることが多い松山ケンイチが、ありふれた“普通の男性”役を演じるのは、逆に新鮮味を帯びる
  • “カッコつけない”ことが松山ケンイチの強さのひとつ。過去に「他人にまで好かれる必要ねぇだろって」と発言したことも
  • 「カッコ悪いことこそカッコイイ」という意識すらないのかもしれない
  • 松山ケンイチは「うまい」と褒められるのも嫌う。「うまいと言われるとがっかりする」とまで言い切っている
  • 人間離れしたかのような豊かな表情も、人に良く見られたいという意識のストッパーがないからこそ表現できるものだろう

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隣の家族は青く見える

出演者:深田恭子 松山ケンイチ 平山浩行 高橋メアリージュン 北村匠海 眞島秀和 真飛聖 野間口徹 須賀健太 伊藤沙莉 前原滉 寿大聡 橋本マナミ  ほか

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