「億男」原作・川村元気氏、自分が書いた小説を俳優が演じることで「濃い豚骨しょう油味みたいなものになる」
「告白」(2010年)、「モテキ」(2011年)、「君の名は。」「怒り」(ともに2016年)など、数多くのヒット映画を企画・プロデュースしている川村元気氏。彼が処女小説「世界から猫が消えたなら」に続いて書き上げた長編小説「億男」(文春文庫刊)が佐藤健と高橋一生の共演で映画化。今回はプロデューサーではなく原作者として参加している彼は、この作品をどのような思いから書き上げていったのか。作品が生まれた経緯や、完成品を見て感じた気持ちなどを語ってもらった。
──川村さんはどんなキッカケから今回の「億男」を書かれようと思われたんですか?
僕の小説1作目である「世界から猫が消えたなら」は、映画や電話が消えていく中で、相対的にその物の価値を考えるというテーマだったんです。これを書いているときに、“お金が消えたなら”という章を書こうと思ったんですね。お金が僕らにとってどういう存在だったのか、消えたら幸せになるのか不幸せになるのかと思って調べ始めて、120人くらいの億万長者にも会ったんです。でも、全然幸せそうじゃない人、発言や生き方がいびつな人がいて面白いなと思って。お金をテーマにして長編が一本書けるなと思い、「世界から―」には入れずにとっておいて、書いていった感じですね。
──億万長者の方を取材されたとのことですが、やはり今作に出てくるように普通の人とは違っている方が多いんですか?
お金持ちの気持ちってなかなか味わえないじゃないですか。映画の冒頭でも出てくる、そういう人たちが集まるパーティーに遊びに行かせてもらったんですよ。で、一晩で500万とか使っていて、お酒を飲んでパーッとやっていて楽しそうに見えるんですけど、主催者も参加者も全然楽しそうに見えなかった。そのシラケはどこから来るのか、ずっと掘っていったのを高橋一生さんが演じている九十九というキャラクターに象徴させています。よく宇宙飛行士の方が宇宙に行って意識が変わるとか聞くじゃないですか。やっぱり、お金もある程度まで手に入れた人って僕らが見ていない世界を見ているから、いびつになるというか、変に冷めちゃうのか、あるいはお金持ちだけが集まるサロン的な楽しみを見つけていくのかなって。
あと、藤原竜也さんが演じる千住がやっている億万長者になるためのセミナーのシーンを書くとき、そういう場に行ってみたんですけど、何かが足りないなと思って。本作を連載していた当時、掲載誌の副編集長と居酒屋に行ったときに、“お金を破いたことってないな”と思って破いてみたら、周囲が“コイツ何しているんだ!?”って感じでドン引きしたんですよ(笑)。もちろん、セロテープでくっつけて銀行に行けば取り替えてもらえるからやってみたんですけど、僕自身その時にすごく嫌な気持ちになって…。この行為って、ある種の踏み絵だな、宗教だなと。そこから、お金を破くシーンを入れたんです。でも、もう僕は2度とやりたくないですね(笑)。
公開中
監督=大友啓史/出演=佐藤健、高橋一生、黒木華、池田エライザ、沢尻エリカ、北村一輝、藤原竜也ほか